創作日記&作品集

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物語のかけら⑧

2006-06-28 21:28:58 | 創作日記
イローナは楽譜を胸に抱いて図書館を出た。
「フランソワ・ヴィヨンはお前によって遠い昔から帰ってくる」
顔も知らない詩人がとても近くに感じられた。
森を抜けると、村人が集まっていた。中には拳を突き上げているものもあった。
「国王様万歳!」
「勝利、勝利」
歓喜しているものは少ない。殆どの村人は押し黙ったまま、王の帰還を待っていた。点にしか見えなかった行列がイローナの前を通り過ぎた。馬上の王は眠っていた。馬の首に振り分けにかけた敵将の首が虚空を睨んでいた。行列は城への道を進んだ。辺りが急に暗くなり、城の背後で稲妻が光った。激しく雷が鳴った。

急に辺りが、暗くなった。優はアパートへの道を急いだ。肩を寄せるビルの間の狭い空に稲妻が走った。身体に痛い雨が降り出した。雨を避ける場所を探して、いつもは気づかずに通り過ぎる路地を曲がった。
「時の博物館」~ご自由にお入り下さい~
重い扉を押した。中にはいると、雨の音は消えた。それほど広くないフロア。空中に静止した秤があった。「時の秤」。それは時の重みに微かに傾いでいた。