創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

物語のかけら⑤

2006-06-25 08:20:15 | 創作日記
1611年。今はヨーロッパ史の中からも消えてしまった小さな村。小高い丘に村を見下ろすようにそびえる城。城の背後は絶壁になり、荒い波が打ち寄せていた。村の近くに深い森があった。つづらおりの細い道が古い図書館に通じていた。5月の森。イローナ。17歳の少女。バラードの楽譜を図書館に取りに行く途中だ。彼女は楽譜を読めないが、彼女に歌を教える盲目の司祭のために必要だった。「その音はどちらを向いている?どこにいる?」年老いた司祭はイローナに聞いた。
イローナは歌いながら道を行く。時々曲にあわせて、踊る。イローナの歌は自然の歌声だった。鳥のさえずり、木々をふるわせる風、清流の流れ、さんさんとふる太陽。イローナはふっと、立ち止まり、手のひらに落ちた小さな花びらにそっと息を吹きかけた。イローナの小さな風に、小さな花びらは、小さな蝶のように飛び立った。