苗字は山本。山本優。一度だけ寮長に聞いたことがある。「山本って誰ですか?」。寮長はしばらく考えた後、「君だよ」と答えた。ある時間から自分が現れた。それは突然空中に浮かんだ一個のシャボン玉のようだ。一つだけ浮かんでいて、いつはじけるかも知れない。
勉強はまるでだめだった。心優しい同級生が後ろに二、三人いるだけだった。分数は分からない。ただ、教師が黒板にチョークで書く分母と分子は好きだった。分母の上に分子が乗っている。分子が大きすぎると、数字は転げ落ちて家の形になった。
中学生になった。里親の話も養子の話もなかった。四年生の時の事件が影響していたのかも知れない。
休みの日になると、空気をぱんぱんに入れた自転車で坂道を上がる。少しずつに大きくなる空に優は吸い込まれる。消えてしまってもいいとその瞬間に思う。
勉強はまるでだめだった。心優しい同級生が後ろに二、三人いるだけだった。分数は分からない。ただ、教師が黒板にチョークで書く分母と分子は好きだった。分母の上に分子が乗っている。分子が大きすぎると、数字は転げ落ちて家の形になった。
中学生になった。里親の話も養子の話もなかった。四年生の時の事件が影響していたのかも知れない。
休みの日になると、空気をぱんぱんに入れた自転車で坂道を上がる。少しずつに大きくなる空に優は吸い込まれる。消えてしまってもいいとその瞬間に思う。