創作日記&作品集

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人間の建設 4 岡潔・小林秀雄対談

2010-04-23 15:52:40 | 読書
○破壊だけの自然科学
岡 たとえば人類の生命を細菌から守るというようなことでしょう。しかし実際には破壊によって病原菌を死滅させるのであって、建設しているのではない。
45年前の自然科学からかけ離れて発達したのは分子生物学だと思います。それ以外はたいした発達はないように思います。高血圧(わたし)さえ上手に治療できないのです。やはり、現在も破壊し続けているのです。
岡 つまり今の科学文明などというものは、ほとんどが借り物ですね。人は自然を科学するやり方を覚えたのだから、その方法によってはじめて人の心というものを科学しなければいけなかった。それはおもしろいことだろうと思います。

○アインシュタインという人間
小林 アインシュタインの言葉として、「わたしが世の中で一番わからないことは、世の中がわかることである。その意味はね、ぼくはこうだと思うのです。欠陥のない幾何学的現象を書いたわけですね。これはわかるということです。どうしてわかるのだろうということが、彼には一番わからぬことだという意味ですよ。ベルグソンの議論に対して、どうしてああ冷淡だったか、俺には哲学者の時間はわからぬ、彼がこたえているのはそれだけですよ。アインシュタインがボルンに宛てた手紙でこういうことをいっている。波動力学が流行したときに、おれはいやだ、いやだけれども、おれにはこれに対抗する理論は一つもない、あるのはおれの指だけだ、皮膚の中に深く食い込んでいる意見を証言している弱い指しかない。
岡 アインシュタインのいうとおり、刃向かおうとしても、指しかないから黙っている。
小林 指を守るか、指を捨てて新しいことを発明するか、ということになっておるわけですね。
難解ですね。でも、ぼんやりとわかるような気がします。
小林 わたしは哲学者の全集を読んだのはベルグソンだけです。後は何とかかんとか言っておりますが、拾い読みみたいなものです。
謙虚ですね。
小林 わたしは発明者本人の書いた文章ばかり読むことにしました。
岡 どうして解説書という妙なものが書けるか不思議なくらいです。
今も解説書が全盛ですね。
岡 釈尊は諸法無我と言いました。科学は無我である。我をもっているものではないということを教え込まないといかんわけです。
これはよくわかります。すかたんにわかっているのかもしれませんが。
小林 ベルグソンが若い頃にこういうことを言ってます。問題を出すということが一番大事なことだ。問題をうまく出せばすなわちそれが答だと。
岡 問題を出さないで答だけを出そうというは不可能ですね。
今の教育の問題点がここにあるのではないでしょうか。余談ですが言葉を書き写すのはとても勉強になります。たとえば「言う」と「いう」の使い分け。「事」と「こと」の使い分け。「殆ど」よりひらがなの「ほとんど」のほうが美しいですね。ワープロだから漢字をつかいすぎ。