朝日新聞の医療サイト「アピタル」に連載中のコラム、徳永進先生の「野の花あったか話」最新号に涙腺を激しく刺激された。
先生は野の花診療所のドクターであり、以前「野の花ホスピスだより」(新潮文庫)も興味深く拝読した。
以下、転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
間に合った愛のリング(2016年1月23日08時05分)
医療は進歩する。40年前なら、進行胃がんは開腹手術ができたらヤレヤレ。余命は持って1年。今は長くなった。症例によっては腹腔(ふくくう)鏡を使った手術で侵襲を抑え、内服抗がん剤ががんを縮小させることもある。
三郎さんは77歳。4年前に進行胃がんの手術を受けた。今年再発し、腸閉塞(へいそく)。切除は不能で、腸と腸をつなぐバイパス手術で切り抜けた。さらに腸の別の部位が通過障害を生じ、腸管を広げるステントを挿入。そのステントが閉塞し、さらに2本目のステントを挿入。そして限界を迎えた。三郎さん、病気のことは全部知っている。退院して家で過ごすことを決意した。病気の、山と谷をよくぞくぐり抜けられた。人間の、病気に立ち向かう姿には、いつものことながら、敬服する。
さっそく往診に出かけた。家は郊外にあった。昔は、周囲全部が田んぼ。三郎さん、米作りをして、合間に森林の伐採、道路工事、大工仕事、何でもする兼業農家だった。
「このごろ食欲がなくなりました。足の力がのうなって、トイレがやっとです」。がんの末期の何とも言えぬしんどさを訴えた。「やせましたし」と奥さん。診察を終えて帰ろうとすると、玄関先で奥さんに呼び止められた。「私の大切な人です。一日でも長う頼みます」。言葉が真っすぐ心に届く。力にならねばと思う。
次の往診日、奥さんが言う。「明日、指輪が届くそうです。結婚した時、時代が時代で何もしてやれんかったって、主人、言ってくれて」。三郎さん、照れた。「わしゃ酒飲みで、苦労ばっかりさせましたから」。三郎さん、やるぅー。
翌日、指輪が届いた。55年遅れのきれいな結婚指輪が、2人の指にはまっていた。「間に合いましたわ」と三郎さん、また照れた。
(転載終了)※ ※ ※
本当に夫婦の形はさまざまだ。55年遅れの綺麗な結婚指輪を飾るお二人の齢を重ねた指。なんて素敵だろう。77歳の三郎さん、照れながらもこんなプレゼントを用意されるとは、なんて素敵だろう。55年のエメラルド婚式を迎えるほど長年連れ添った奥様はどれだけ嬉しかったことか。奥様の「私の大切な人です。一日でも長う頼みます」の言葉に胸が熱く揺すぶられる。
ご主人の大変な闘病生活を一番傍で見てきて、それでも一日も長く、と医師にお願いする奥様。そして、先生の「力にならねばと思う」の言葉。こんなにまっすぐな言葉が響きあう関係、なんて素敵だろう。
まっすぐな言葉は心に響いて共鳴し、暖かな空気で優しく心を包み込む。
ああ、私も一日も長く、と大切な人に言ってもらえるように生きていきたい。私の大切な人たちを大切にしながら、一日一日を愛おしく思いつつ過ごしていきたいものだ、と改めて思うのである。
不調だった土日を過ぎ、今日から月末の1週間が始まった。昨日の市長選には投票に行くことが出来ず、ダメな選挙民である。極寒の朝、今週はほどほどに身体の声を聴きながら・・・と、ともすればまた性懲りもなくトップギアで走り続けそうな自分に言い聞かせつつ無事出勤した。
先生は野の花診療所のドクターであり、以前「野の花ホスピスだより」(新潮文庫)も興味深く拝読した。
以下、転載させて頂く。
※ ※ ※(転載開始)
間に合った愛のリング(2016年1月23日08時05分)
医療は進歩する。40年前なら、進行胃がんは開腹手術ができたらヤレヤレ。余命は持って1年。今は長くなった。症例によっては腹腔(ふくくう)鏡を使った手術で侵襲を抑え、内服抗がん剤ががんを縮小させることもある。
三郎さんは77歳。4年前に進行胃がんの手術を受けた。今年再発し、腸閉塞(へいそく)。切除は不能で、腸と腸をつなぐバイパス手術で切り抜けた。さらに腸の別の部位が通過障害を生じ、腸管を広げるステントを挿入。そのステントが閉塞し、さらに2本目のステントを挿入。そして限界を迎えた。三郎さん、病気のことは全部知っている。退院して家で過ごすことを決意した。病気の、山と谷をよくぞくぐり抜けられた。人間の、病気に立ち向かう姿には、いつものことながら、敬服する。
さっそく往診に出かけた。家は郊外にあった。昔は、周囲全部が田んぼ。三郎さん、米作りをして、合間に森林の伐採、道路工事、大工仕事、何でもする兼業農家だった。
「このごろ食欲がなくなりました。足の力がのうなって、トイレがやっとです」。がんの末期の何とも言えぬしんどさを訴えた。「やせましたし」と奥さん。診察を終えて帰ろうとすると、玄関先で奥さんに呼び止められた。「私の大切な人です。一日でも長う頼みます」。言葉が真っすぐ心に届く。力にならねばと思う。
次の往診日、奥さんが言う。「明日、指輪が届くそうです。結婚した時、時代が時代で何もしてやれんかったって、主人、言ってくれて」。三郎さん、照れた。「わしゃ酒飲みで、苦労ばっかりさせましたから」。三郎さん、やるぅー。
翌日、指輪が届いた。55年遅れのきれいな結婚指輪が、2人の指にはまっていた。「間に合いましたわ」と三郎さん、また照れた。
(転載終了)※ ※ ※
本当に夫婦の形はさまざまだ。55年遅れの綺麗な結婚指輪を飾るお二人の齢を重ねた指。なんて素敵だろう。77歳の三郎さん、照れながらもこんなプレゼントを用意されるとは、なんて素敵だろう。55年のエメラルド婚式を迎えるほど長年連れ添った奥様はどれだけ嬉しかったことか。奥様の「私の大切な人です。一日でも長う頼みます」の言葉に胸が熱く揺すぶられる。
ご主人の大変な闘病生活を一番傍で見てきて、それでも一日も長く、と医師にお願いする奥様。そして、先生の「力にならねばと思う」の言葉。こんなにまっすぐな言葉が響きあう関係、なんて素敵だろう。
まっすぐな言葉は心に響いて共鳴し、暖かな空気で優しく心を包み込む。
ああ、私も一日も長く、と大切な人に言ってもらえるように生きていきたい。私の大切な人たちを大切にしながら、一日一日を愛おしく思いつつ過ごしていきたいものだ、と改めて思うのである。
不調だった土日を過ぎ、今日から月末の1週間が始まった。昨日の市長選には投票に行くことが出来ず、ダメな選挙民である。極寒の朝、今週はほどほどに身体の声を聴きながら・・・と、ともすればまた性懲りもなくトップギアで走り続けそうな自分に言い聞かせつつ無事出勤した。