散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

60の手洗い / 躊躇あり

2015-07-16 10:45:50 | 日記

2015年7月16日(木)

 仕事の合間に、もうひとつだけ。

 昨日は「障害のある学生に対する支援を検討する委員会」で出校した。こういうのは大事な作業である。小豆島のMさんから教わったことが、大いに役に立つかもしれない。

 会議のメンバーもテーマに合わせて各コースから選ばれ、コース同僚のS先生などは、障害のある学生へのスポーツ指導を主題とした科目を作っておられるから、まさに最適任。その向こうは臨床心理のK先生で、これまたさまざまな意味で適任かつ重要なメンバーである。

 そのK先生がおっしゃった。

「いやあ暑いですなあ、この年になりますとますます堪えます。それに夜がね、60の手洗い、などと申しましてね」

 一発KO、絶句してしまった。K先生の関西訛りも決まり過ぎているのである。気の利いた返事ができなくて困った。

「そ、そういうものですか、そういうものですね」

「おや、先生は大丈夫ですか?」

「いえ、その数字はまだですが、おっしゃることは、ハイ」

 へどもどしてしまった。僕より5歳若いクリニック院長のA君が「毎晩1~2回は起きる」というんだから、これはまったく普遍的な現象である。ただし季節柄、寝苦しい夏の夜は水分が汗に逃げる分、これが減るというありがたさはあるんだな。

***

 この記事を書いていたら、昨日の会議に出席していた事務方さんからメールが入った。別用のついでにコメントあり。

 「先取り予想して支援の方法を決めるより、実際の障がい者にヒアリングしたほうがよい」  のご発言参考になりました。学生さんに対するヒアリングを躊躇し、取りやめていた経緯があるのでぜひ進めたいと思いました。

 返信:
 
 思いつきの発言でしたが、お役に立ちましたら幸いです。
 現実に存在する利用者の力を借りた方が、時間・費用対効果としてもずっと良いように思うのです。要はナマケモノで無駄を嫌うので、「こちらでいろいろ考えたけれど、的が外れていた」という顛末を避けたい一心でした。
 
 ところで担当者は、何を躊躇したのだろう?

より大きな危険(続) ~ クマ号事件の事実関係と判決

2015-07-16 07:57:19 | 日記

2015年7月16日(木)

 毎日毎度のことだが、たとえば先週の金曜日、荻窪駅前。

 横断歩道を渡ろうとすると、右手からワゴン車がやってきた。こちらを認めて減速し、横断歩道の前で停止する。その横からあらわれた自転車、20代後半ぐらいの女性が悠然とワゴン車の前に出て、ちらりと一瞥をくれるがむろん止まる様子もなく、当然のように横断歩道を横切って通り過ぎる。歩行者である僕と、停止したワゴン車が、それをなすすべもなく見送っている。自転車の女性がイヤホンで耳をふさいでいたかどうか、そこは記憶がハッキリしない。

 自転車ってスペードのエースなのね。他の誰よりも強く、信号無視も歩行者の権利侵害も、すべて許されちゃうのだ。

***

 いずれ項を改めて書くんですが、文科一類に入学したけれど法律の勉強がどうにも性に合わず、それで結局、進路を変更することになった・・・という言明は、とりあえず僕自身のことである。ところがどうやら、全く同じことが次男に起きたらしいのである。ただし、そこから医学部へ行き直したというのが僕のフザケたところで、次男は法学部ではなく専門課程の教養学科に進むという正道を選んだ。彼の方がマジメであり、逃げないのである。

 とはいえ僕には僕の弁明がある。法学部では落ちこぼれに近い不良学生だったけれど、そこで学んだいくつかのことは今日まで使える生きた財産になった。サミュエルソンの教科書を使った経済学入門で、「地獄へ至る道は善意で敷きつめられている」と学んだこと、つまり、個別の善意の総和は必ずしも社会全体の向上をもたらすとは限らず、だからこそ道徳論や教育論では足りなくて、社会科学が必要になると知ったことなどは、それだけのために一つ所に4年通ったとしても無駄ではなかったと思っている。

 法学についても似たことがあった。ただ、「クマ丸」についての資料が意外にもネットからは出てこないので、次男の管理する別室の本棚から掘り出してもらった。

 米倉明『法学入門』(東京大学出版会)、これですよ、ありました。「クマ丸」じゃなくて「クマ号」だったんだね、失礼。

***

{判例1] 損害賠償請求事件(クマ号事件) ~ 豊島簡裁昭和43年3月29日判決

< 事実 >

① 事実関係の大要は下図の通り。以下、補足する。

② クマがX方の庭に侵入し、当時つながれていたマルに咬みつき負傷させた。

③ Yはクマをつなぐのを怠ることが多く、事故当時も怠っていた。

④ マルの受けた傷の程度は、家畜病院に入院して手術を要する全治約20日間の傷であった。

⑤ Xはマルを大竹家畜病院へ入院させ、手術その他の治療費として34,500円を支払った。

⑥ X(原告)よりY(被告)を相手に訴を提起。

1 請求の趣旨:

 被告は原告に対し8万円およびこれに対する昭和42年3月1日から支払済まで年5分の利率による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求める。

2 請求の原因:

(1) 昭和42年2月5日午前5時頃、Yの飼育する雑種日本犬クマがX方庭内に垣根をくぐって侵入し、Xの所有飼育する雑種芝犬(ママ・・・米倉先生、誤植がありましたよ!)マルの咽頭部その他を咬み、治療に約一ヶ月を要する重傷を与えた。

(2) Xは当時マルをX方庭につないでいた。右事故は、犬の飼育占有者としてクマをつないで他人に害を与えぬよう保管すべき義務があるのに、これを怠ったYの過失にもとづくものである。

(3) Xはマルを直ちに杉並区の大竹家畜病院に入院させたが、その治療費に34,500円を要した。また、Xの妻Aは愛犬マルの受傷のショックにより、高血圧、心筋障害にかかり、下石神井の関口医院に通院加療し、治療費6,370円、通院に要する雑費9,130円、合計15,500円を要した。X自身も愛犬マルの受傷により精神的打撃を受けたが、その慰藉料は3万円に相当する。

(4) Yは、Xの前記不法行為によってXの受けた物的損害5万円および精神的損害3万円、合計8万円をXに賠償として支払うべき義務があるのに、これを履行しない。

(5) よってXはYに対し損害賠償として8万円およびこれに対する昭和42年3月1日から支払済まで年5分の利率による延滞損害金の支払いを求める。

3 立証(省略)

⑦ Yの主張

1 請求の趣旨に対する答弁 ー Xの請求を棄却する、訴訟費用はXの負担とする、との判決を求める。

2 請求の原因に対する答弁 ー X主張の請求原因中、Yが雑種犬クマを飼育してこれを占有していることは認めるが、その余の事実を否認する。

3 立証(省略)

 

< 判決 >

[主文]

 被告は原告に対し、金39,500円および右金員に対する昭和42年3月1日から支払済まで年5分の利率による金員を支払え。

 原告のその余の請求はこれを棄却する。

 訴訟費用は三等分し、その一を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

(以下省略)

***

 さていかがでしょう?

 ここから僕が何を学ぶことになったかは、帰宅後に続ける。

 

 


ある節目 ~ 2015年7月15日(水)

2015-07-16 07:44:32 | 日記

2015年7月16日(木)

 安保採決 自公が強行(衆院特別委員会)

 きょう衆院通過へ

(朝刊1面)

***

 自衛隊員は全て、入隊時に服務の宣誓をします。

 「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法および法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し」・・・

 自民党が推薦して国会に招いた方を含む憲法学者や、「法の番人」と言われる内閣法制局長官経験者、そして国民の多くが憲法違反と考えている集団的自衛権の行使を認める法案は、明らかにこの宣誓文にハンする者で、民主主義をないがしろにするものです。命を張って国民の負託に応えることを求められている現役自衛官たちに対する明白な契約違反です。」

(元陸自レンジャー隊員 井筒高雄氏 同15面)

***

 政府は先月、国際機構を通じてロヒンギャへに支援に350万ドルを拠出すると表明した。しかし漂流するアジアの人々を受け入れるという話は出てこない。国連が各国に受け入れを要請しているシリア難民の場合と同様、日本は金を出しても、ようやくたどり着いた人々を難民と認めることにさえ、きわめて消極的だ。

 日本政府には、1990年代の湾岸戦争で多国籍軍に130億ドルを支出しながら、国際社会から評価されなかったトラウマがあるとされる。安倍首相も「お金の援助だけでは世界に評価されない」と自著に記す。

 安全保障に限らず、難民支援もその点は同じだと思い至らないのが、不思議な。

(朝日新聞特派員 柴田直治氏 同14面)