散日拾遺

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どんな場合?

2016-09-01 11:10:23 | 日記

2016年9月1日

被爆二世さんより質問コメント:

 いつも興味深い記事をありがとうございます。教えていただきたいのですが、

 「本人にはどうしようもない病気のために、本人にはどうしようもない形で犯罪が行われた場合に限って、その限度で責任が減免されるのです。」

 これは実際にはどんな場合のことを言うのでしょうか?また、予防策にはどんな事が考えられますか?

***

被爆二世さんへ:

 詳しく論じるときりがないし、私も「ものすごく詳しい」というわけでもないので、端的に例を挙げるにとどめます。

 たとえば、統合失調症急性期の幻覚妄想にとらわれ、自分が攻撃されていると思い込んで逆襲したような場合は、心神喪失あるいは心神耗弱と判断され責任が免じられることになるでしょう。ライシャワー事件の加害者少年の場合もそうでした。統合失調症の発症に関して本人にはまったく責任がないということが、大前提としてあります。

 これに対して、見かけは同じ幻覚妄想状態における逆襲行動でも、たとえば覚醒剤精神病の場合には「覚醒剤を使用した」ことに関して本人に責任があるわけですから、話はまったく違ってきます。当然ですよね。実際には黒か白かではなくグレーゾーンの話も多いわけで、そこに非常な難しさがあると思われます。

 予防策ですが、これはそれぞれの疾患を適切に治療予防することに尽きるでしょう。実際、統合失調症の患者さんがその種の犯罪に至るのは、未治療の場合がほとんどです。ですから予防策はいたずらにこの病気を危険視して遠ざけることではなく、発症早期に安全確実に医療的援助を受けられるようなシステムを整え、そのような知識を普及させることです。

 半世紀前に話を戻せばライシャワー事件の加害者だって、もっと早い段階で治療にかかれていたら、あんなことにはならなかったでしょう。抗精神病薬が登場してから既に10年以上経過していましたから、治療方法は医者の手許にはあったのです。だからこの事件への反省として「医療を充実させよう」という声が出て当然のところ、実際には「取り締まりを強化しろ」の大合唱であったのが、当時の日本社会の悲しい限界でした。むろん、それに対してきちんと抗議できなかったわれわれ精神科医は、誰よりも猛省すべき立場にあります。

 話を元に戻して、覚醒剤精神病だったら特に若い人々に(中高生ぐらい、いっそ小学校高学年から)クスリの恐ろしさをよくよく知らせることが、予防策として不可欠と思われます。

 ここから先は御自身で調べ、お考えになってください。修士論文のテーマとして適切かどうかはわかりませんが、今日喫緊の重要課題であることは間違いありませんから。

 さて、そろそろ出かけて千代田病棟へ行って参ります。防災の日、お互いに用心して過ごしましょう。

Ω


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