プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

世界の不条理 ハイチ

2010-01-16 23:22:51 | アート・文化
P1010119

 ハイチで大地震がありましたが、なぜよりにもよってハイチなんだろうか、神も仏もあったもんじゃないなという気がしました。もともとから政情が極めて不安定でクーデターや無法状態が続き、人々は食糧不足にあえぎ人口の80%は1日2ドル以下での暮らしを余儀なくされ、衛生状態が極めて悪く感染症の宝庫と言われ、また人口1万人に比して医者が2人しかいない世界最貧国のハイチで、さらに追い打ちをかけるようにこの大災害。CNNで1日中ニュースが流れているけれど、支援するにしても首都ポルトー・プランスの飛行場は滑走路がひとつしかなく、一方港は壊滅状態、またドミニカから続く陸路も救援物資が届かず業を煮やした民衆が犠牲者の遺体で道路封鎖し始めた・・・、という具合に陸、海、空すべての道が閉ざされ、ひどいことになっているようだ。衛生状態の悪さ、水・食糧のなさ、無法地帯の治安、クローズドの出入り口・・・。
 この先一体どうなるんだろうか?

 ところで、同じ島の陸続きであるドミニカ共和国の一人当たりの国民総所得8000ドルに対してハイチではわずか560ドルであるということも知ったが、ではなぜそんなにこのカリブ諸国の中でも際立って貧しい国なのだろうか? どうやらその理由は世界最初の「黒人独立国家」であることに起因するようだ。もともとフランスの植民地で、西アフリカからの黒人奴隷を酷使し林業やコーヒー・プランテーションによって切り開かれた国だったが、フランス革命などのドサクサにも乗じてナポレオンに反旗を翻した黒人奴隷たちが決起し、1804年にフランス軍を追い出しついにハイチ革命が成功、独立宣言をしたのだった。
 世界初の奴隷解放、そして黒人による共和国の誕生。

 というわけで颯爽としたスタートを切ったハイチだったけれど、他の植民地がハイチの例をまねて独立決起などしないよう見せしめとして、宗主国フランスから多額の賠償金を要求されたり、国際的に孤立させられたり、いろいろと意地悪をされ続けた。そして20世紀に入るとナチス・ドイツが介入、第二次大戦後はアメリカの内政干渉、また内的にも軍事独裁政権による政情不安定が現在まで続き、果ては世界の最貧国にまで落ち込んでしまったわけ。
 そしてそんなことはおろか、存在すら忘れ去られていた国、ハイチ
 そこに今回の大地震。

 個人的にハイチといえば、以前アフリカ文化や自然哲学などに興味があっていろいろ本を読んでる際に、上記したような歴史的背景を知ったことを思い出す。アフリカからの奴隷が北中南米に連れ去られ各地に散って行く先で、土地ごとにアフリカ文化に根ざした新しい音楽や民俗が生み出されていったわけだが、その中でもハイチのものが最もアフリカ色が濃く残っていたらしい。それはゾンビーの映画で有名になった「ブードゥー教」という土俗に代表されるが、きちんとした人類学の本を読むとゾンビのおどろおどろしさなどひどい誇張で、それより偉大なるアフリカの哲学的世界観が根底に流れていることも知った。そんなアフリカ色濃かったハイチで黒人最初の独立国家が生まれ、そして世界最貧国にさせられたという皮肉には、いろいろと考えさせられるものがあった。またアフリカの自然哲学と、日本の縄文文化には相通じるフィーリングがあって、そこには自分自身のシーカヤック観や自然観もなにがしか影響を受けているんだろうな、ということも思った。

 2001年9.11米同時多発テロが世界の不均衡や非対称性について深く考えさせられるひとつのきっかけになったように、このハイチ地震でも、貧困問題や南北問題や世界の不条理を、世の中全体が深く考えざるをえない大きな事件となるだろう。何より、被災地の庶民の人たちは何の罪なく世界の歪み、歴史の因業をリアルに背負わされているわけで、あまりにもかわいそうである。以前衛星放送でレッドホットチリペッパーズのベーシストのフリーという人がハイチに行き、恐ろしく医師が少ない中、医療ボランティアとしてかけまわる保健師の女性を訪ねる番組を見たことがあるが、とんでもない状況にもめげず前向きに生きているやさしい庶民の姿が映し出されていた。そんな彼らが被災しているということを思うと胸が痛む。
 言葉がありません。
 できることとして、まずは募金に協力するしかないだろう。
 http://www.unicef.or.jp/index.html


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