プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

世界の多様性のために

2016-09-21 23:10:13 | アート・文化

 先日、15回目の9.11を迎えた。
 2001年9.11米同時多発テロの時、ぼくはシーカヤックの武者修行中で長い海旅をしていて下関付近にいたんだけれど、その後関門海峡を渡って九州西部を南下していくに従い世界情勢は悪化し、やがてアフガン空爆、イラク戦争となだれこんでいった。

 あのときジョージ・ブッシュが言ってた言葉を忘れることができない。
 「アメリカに従うか否か、従わないものはすべて敵、悪の枢軸、テロリストと見なす」
 あれほど腹が立ったことはない。
 海旅してると、めちゃ感覚鋭くなるからね。
 海ほどリアルな世界はない。そして海のリアルにずっーっと触れてると、世界のリアルへの感受性が高まるようだ。2000キロ向こうの台風からも波うねりは今ここに届けられこの身を揺らすように、水平線の向こうのリアルワールドから届けられた世界のうねりも我が心を揺さぶる。要するにあれは異文化に対する圧倒的な不寛容と強者の傲慢を押しつけた台詞だったが、本当に腹が立った。あの台詞は、ブッシュが、アメリカが、というより、ホモ・サピエンスがこの地球に登場して以来、強者が弱者に言い続けてきた文言、差別や圧政、略奪、蹂躙、戦争の際の慣用句に他ならない。どう転ぶか見当がつかなかった当時の不穏な世界情勢の下、「こいつ、なんてこと言うんだ」と思ったものだ。

 あれを聞いて、ぼくは全く違う道をいこうと思ったのだった。辺見庸という作家は当時「私はブッシュの敵である」という本を書いていたが、敵と言ってる時点で、ブッシュの文脈に乗ってしまっていることになる(本自体はいい本だったけどね)。
 敵も味方もあるかいな、どっちも関係ない、世界はもっと多様で多元的で豊かなもののはずだ、と思った。
 その後アイランドストリームを開いたのだったが、あのときひたすら考えまくったことが運営、活動の根本になっている。世界をあちこち旅する動機にもなっている。今も全然変わっていない。
 あそこが自分の初心、原点なんだよな。別にカヤックおたくなわけじゃない。一番鋭敏な乗り物だからカヤックを続けてやってるわけ。世界の多様性、多元性、豊かさに対して常に敏感でありたいからシーカヤックなんだよ。

 シーカヤックの神髄、奥義はそういうところにある。 

 その時読んで一番感銘を受けたのがこの本。「関係の詩学」エドゥアール・グリッサン著、 管 啓次郎訳。カリブの小国マルチニーク島の詩人・哲学者の本だけど、やっぱり奴隷制~植民地時代というとんでもない苦を経てるだけあって、徹底的に考え抜かれている。前世代の抵抗主義者たちの欠点も見据え、乗り越えて洗練されている。つまり反骨精神やルサンチマンが止揚されて、すべての人種が共有できる平和主義の高みに達しているってこと。まるでボブ・マーリーのpossitive vibrationの歌の世界だ。世界の多様性、多元性が主題だ。まあ8割方ちんぷんかんぷんだったが、なぜかビビビーんときた。今読み返すともっと分かるかもしれない。もう一度読んでみようっと。


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