「朝涼」という夏の季語、「新涼」という秋の季語がある。この句の季感は、それらに似ている。夏が終わりかけ、ようやく涼しくなってきた朝風に、作者はいとしさを知った、と言う。今まで知らなかったことを、初めて知ったのだ。
「いとしい」は、「いとおしい」から変化し、① かわいく思うさま。②恋しく慕わしいこと、と辞書にある。
作者の朝風に対する愛しさは、様々な人生経験を経て、かつ老年に達することによって、初めて知ることができたのだろう。これこそ俳句が、作句する作者へ与えたご褒美と言えるのではないだろうか。
ヒオウギ(射干・檜扇)の種。ぬばたま、うばたま、むばたま(射干玉)
万葉時代より、種が黒いことから、黒髪・夜などにかかる枕詞