Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

夏の怪(4)

2012-04-18 15:57:54 | アート・文化
 いきなり昨年の7月の「夏の怪(3)」の続きです。
なんだか完結したくなったんです。
 私は恐る恐る庭に出てみました。それでも、未明の薄い明るさは真夜中とは違った安心感を与えます。
庭の中央へ近づく頃には平常心を取り戻していました。視界も動く内にすっきりとして、頭も冴えて来たようでした。
庭の中央で、私は佇み辺りを見回しました。いつも見慣れている梅ノ木、灯篭、低木、などなどが親しい安心感を与えてくれるので、私の落ち着きは増すのでした。
見上げた空には庭木の葉が茂り、覆いかぶさるような葉まで視界がきかないのを一寸不安に感じた時、伯父の「そら、始まるよ」の声が聞こえました。
思わず顔を下げて伯父を見ると、何も。
何も始まった様子はありません。「何が?」何が始まったのだろうと不安に感じたのは薄暗がりのせい。何が始まるのだろうと期待と楽しさが沸いて来たのは、未明の明るさと近親の伯父がそこにいたからでした。
すぐには、特に変化は無いように思われました。が、一瞬の後に、それは現れ始めました。夏の早朝の怪。
むずむず、先ずは顔がむずむず。そして足、腕、などなど。何やら盛んに細かい物がうごめいている感触。
私はとっさに顔を触りました。指に触れるようなものは何もありません。腕を、足を、ムズムズっと来るたびに払いのけようと、気味悪い感触の主を探しました。
嫌な事に、感触は段々と強まり、そのムズムズの原因となるような細かい生物が無数に体に取り付いている感覚がまして来ました。
思わず悲鳴を上げそうになり、盛んに手で拭い去ろうと腕を触ると、そこには、…

…手には、掌の中には、何も無くムズムズはまるで宙に消え失せたように思えました。
まさか、あれだけはっきりした感触の主がいないなんて。
私は、振り払ったのかと地面も見てみましたが、あれだけの無数の生物の全ても残骸も何も、服にさえも何も痕跡を発見できないのでした。
不思議に思い始める間も、むずむずは足に、腕に、むっさりと集りついてくるのです。そのたびに私は手で拭い去ろうと、盛んに掌で払うのですが、予想するようなごろごろとした柔らかい感触には出会えないのでした。
私はしげしげと手を、掌を見つめ観察し、何も無い事を確認し考察し、そしてべっとりと濡れ滴る腕の水分に気づきました。
飽和水蒸気

私は自然の起こす夏の早朝の怪に、胸塞がれるような驚きと地球の大気を感じ、水の惑星地球を感じ、…全てを理解すると科学の一事象を体験させてくれた伯父を、大変怒り、一目散に入り口の伯父の横を通り抜け、すり抜ける時に伯父を睨み付けることを決して忘れず、部屋にとっって返すと布団に寝転びすやすやと寝てしまいました。夏の怪の正体が分かった安堵感で驚きの反動からぐっすり寝込んでしまいました。
次に目が覚めると8時近かったかもしれません。
私は、その日1日が始まったばかりのまだ朝の内に庭に出ると、「夏の怪」を体験させてくれた伯父のことを、近親の伯父の事だからと善意に解釈する事にしました。
自然の科学を体験させてくれたのだ。
ありがたいことだと。
これらの顔は?
もちろんその後同じ体験をした、いとこや我が子の顔かも知れません。
特に私の長男の時には、濡れた庭石で滑って転ぶなど大層不憫で可哀想なことでした。それを母親の目の前で目撃させるなど言語道断でした。
親子二代にわたってこの様な不快な思いを味わわせた伯父を、私は大層怒らずにはいられませんでした。
こちらの言葉で、憎まれる事をする、とはこのことです。