Jun日記(さと さとみの世界)

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靄 3ー6

2025-03-13 11:07:33 | 日記
 ふぅん、と私は思いました。如何してここへ入って来てしまったのだろう。そこはもう木陰の位置で、暗さの差す薄暗い場所でした。境内の大木から、も、そうかもしれませんが、この入り口付近にも幾本かの雑木、中低木が植わっていました。それらからの陰にも思える日陰の場所でした。陰の降りる場所に、私の心にも前進に気乗りし無い影が差していました。
 境内入口の前で躊躇した私は、周囲に気を配るように左右前後と見回して見るのでした。すると入口前の横手に設られた手水舎の水盤が目に付きました。私はそれを眺めました。こちらは旧い物で石の劣化がかなり進んでいます。既に新しい大きな物が鳥居の外、別の近い場所に立てられてから幾星霜、こちらの旧い物は私の幼い頃から殆ど使われなくなっていました。
 「私の若い頃はこちらの手水舎を使っていたのよ。」、と、珍しく母が私と連れ立って境内に来た時、私は彼女から聞いた事がありました。私が神社にいる時、母は殆ど姿を見せませんでした。共に遊んだ記憶も、そう多い物ではありません。ふと、今日も私は1人でいるなぁと思いました。しかしこれは母に限った事で、私の幼い頃は、私は親戚の子等と連れ立ってここに来ていました。子供時代は子供同士、何時も誰かしらとここで複数人で遊んでいました。
 さて、私はその見慣れた古さに微笑むと、水盤に彫られた文字が目に入りました。洗心か。呟くと、私は如何してこの陰に来たのかしら?。という疑問が再び胸に浮かびました。するとさっと、一抹のオカルトめいた不安を感じました。
 そうそう、境内入口、敷居の石の付近に何かを目にしたように感じたからと、私は入り口の白っぽい石に向き直ると、再び目を凝らしてそれを眺め始めました。
 やはり何も変わった物は発見できませんでした。そこで私は、それは私の気のせいだったのだろうと考えました。それでも、腑に落ち無いものを感じつつ、私は何思う所なく日頃の習慣で、つっと片方の足を石段に掛け、ぐいっとそこを昇ると、遂に境内に足を踏み入れました。
 私はそこから、真っ直ぐに本殿へと続く参拝用の石畳を進まずに、石畳の側面に有る広場、大木が散在して聳え立つ開けた場所、懐かしく、何時も遊んでいた広場へと向かう事にしました。かつては入口から駆け込むと、その勢いの儘一散に走り込み、遊びに向かう境内の広場です。すると、私の目はそこに、真っ白に降り広がる物体を捉えました。地面を覆う何物か、私はそこに不思議な見慣れぬ物を発見したのです。それがこの神社の靄でした。
 私は巨木の根下、蔓延るように広がる白い靄を見ました。それは余りに平坦で白くシンとして静寂でした。それは私にとって最初雪かと見紛う程の何物かなのでした。その為この時の私は自分の目を信じる事が出来ませんでした。この季節にまさか?、と思うと、私は、しかも昨日ここに来た時あそこに雪は無かった。昨晩は雪の降る気温でも無かった。と、唖然とした儘暫く自分の考えに没頭していました。

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