Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(255)

2018-11-06 14:27:52 | 日記

 しかし、蜻蛉君は何だか考え事をしている風でした。直ぐには返事をして来ませんでした。その内考えついた様に、

「ホーちゃん、この塀の向こうに今何が有るか知ってないだろう。」

そう言うのです。

「お墓でしょう。お墓が沢山あるのよ。」

うんざりした様に蛍さんが言うと、彼はやはりホーちゃん知らないんだなと、付いておいでと言うと、目の前の木戸を押して先に立って塀の下を潜って行きました。蛍さんも仕方なく、彼に続いて木戸を潜りました。

 「ほら、」

彼が指し示す場所には、茶色いむき出しの土と沢山の土筆がぼろぼろとそのとんがり頭を奇麗に並べるようにして生え揃っていました。早春の初々しく瑞々しい土筆達です。しかも確りとして立派な佇まいをしていました。

「あれっ」

こんな所に土筆があるなんて…、蛍さんは驚きました。吃驚した彼女が「去年は無かったよね、ここには。」と言うと、蜻蛉君はうんと言いながら、

「この時期じゃないとここには無いんだよ。」

この土筆はこの辺りで一番早く生えるんだと思う。と自分の見解を述べるのでした。


土筆(254)

2018-11-06 14:21:30 | 日記

 その年の冬がもう終わろうという頃、ある日蛍さんは蜻蛉君に誘われました。2人は何時も遊ぶお寺へとやって来ました。この時期はもうかなり雪が解け、勿論ソリ遊び等は出来ません。境内にまだ白い色が溶け残る中、土の茶色い部分は増えていました。雪で遊ぶには雪は酷く汚れて少なくなり、気候の良い時期の外遊びをするには、それでもまだまだ雪が邪魔になる境内の有様でした。

 「こんなじゃ、お寺で遊べないでしょう。」

蛍さんは、何故この時期に蜻蛉君がお寺へ自分を誘ったのかと、不思議に思って聞きました。

「まぁね、遊ぶには無理だけど。」

蜻蛉君はそう言うと、見せたい物が有って寺へ来たんだというのでした。蜻蛉君は蛍さんの先に立って歩き出すと、長塀の端にある木戸へと近付きました。

 「この向こうが如何なっているかもう知っているかい?」

彼が聞くので、蛍さんは答えました。

「勿論、この塀の向こうはお墓が有るんでしょう。」

塀の向こう側がこのお寺の墓所になっている事は、先シーズンに学び終えていた蛍さんです。日中とはいえ、何で今から冬の墓所へ行くのかと蛍さんは気乗りがしなくなりました。夏ならば、そこはよい蝉の捕獲場所でしたが、秋も深まるにつれて皆が行かなくなった場所でした。また、見渡してみても、今の境内には蛍さんと蜻蛉君の2人だけでした。シーンとして物寂しさが身に迫って来ます。もう帰ろうと蛍さんは蜻蛉君に言うのでした。


土筆(253)

2018-11-06 11:51:46 | 日記

 その後は父の説得もあり、到頭蛍さんは家の大人に丸め込まれてしまうのでした。

「お前は利口な子だ。良い事悪い事の区別がつく子だ。」

等と言われては、蜻蛉君とはもう遊びませんと言えなくなってしまった蛍さんでした。こうやって渋々また茜さんや蜻蛉君と遊ぶ事になった蛍さんです。

 気候の良い今季のシーズンに、蛍さんは新しい外遊びを幾つか覚えました。虫取りなどもその内の一つでした。虫取り網で蝶や蝉を捕まえるのです。トンボは素早くてなかなか蛍さんの様な小さな子には捕獲する事が出来ません。この夏は主に蝉取りに夢中になる蛍さんでした。虫かごや虫取り網を買って貰うと、大喜びで皆の所へ出かけて行きました。

 秋になると、夕暮れになるまで遊び、「烏が泣くからかーえろ」と、皆で口ずさんで家に帰るのでした。その後はいよいよ寒くて白い雪の降る、何時もの嫌なシーズン、冬がやって来たのでした。蛍さんはまたげんなりとして沈んだ嫌な気分になったかと言うと、今年の冬は違っていました。

 まず晩秋から昨年とは少々違っていました。彼女は雪囲いをする父や祖父や伯父の様子を眺め、面白そうに興味深くその作業の行程を観察したのでした。材料のコモ藁や角材、藁縄等も見慣れない物で面白く、触ってみたりその形を鑑賞したりしていました。縄を結ぶところも面白く、自分でもやってみたいと思い、縄の結び方なども教えてもらいました。勿論上手く出来ないので、盛んに癇癪を起こして泣き出したりしていました。

 その後はその冬に室内でのゲームやカルタ、トランプ等々遊べる物も多くなり、長い冬でも退屈しなくなりました。その上、外で雪遊び出来る事を知りました。スキーやソリ等、出来る出来ないは別にして、雪の日でも外で遊べることを彼女は知ったのでした。こうなると、雪が降ってもそれは楽しく、冬でもそれなりの遊びが出来る事を知りました。また雪が無いと出来ない遊びを知った事も蛍さんにとっては嬉しい驚きでした。雪の上をソリでスイっと滑るのはとても気持ちの良い物だったのです。反対に、春が近付き雪が緩むと、大好きなソリ遊びが出来なくなったと嘆いたくらいでした。


土筆(252)

2018-11-06 11:34:26 | 日記

 祖母は先ず、孫をおだてます。

「ホーちゃんいい子だね、お祖母ちゃんの言う事を何時もよく聞いてくれて。」

等言って孫の注意をこちらへと向けました。決して問題になっている件の言葉、単語には触れません。

「お前ももう少し大きく成れば学校というところへ行くんだよ。」

と、隣の大きい従兄弟、東雲さんや曙さん等の通う学校の話を始め、そこには先生という物事を教えてくれる人がいるというような事を教えます。先生は何でも知っている偉い人だと教え、悪い事をするとしかられると教えます。

「お前はいい子だから、先生に叱られることは無いよ。」

等と前置きしました。

 さて、祖母は段々と本題へと入って行きます。学校へ入る前に良い事や悪い事を沢山覚えておいた方が良い、学校に入ってから覚えるより後々楽になるからね等々言います。幾つかの、子供にも分かり易い良い例悪い例を上げて蛍さんに聞かせると、祖母は言いました。

「皆で仲良く遊ぶのはいい事かな?」

それはいい事だと蛍さんは答えました。では、誰とでも仲よく遊ばないのは?、と聞くと、悪い事だという答えになるのでした。

 そこまで話して置いて、蛍さんが段々妙だと気付く頃には、

「じゃあお祖母ちゃんは用があるから。」

と、旗色が悪くならない内に祖母は退却して行くのでした。祖母は、息子から孫娘への話の下準備を整えていたのです。この後は息子である蛍さんの父に説得の場を譲るのでした。