しかし、蜻蛉君は何だか考え事をしている風でした。直ぐには返事をして来ませんでした。その内考えついた様に、
「ホーちゃん、この塀の向こうに今何が有るか知ってないだろう。」
そう言うのです。
「お墓でしょう。お墓が沢山あるのよ。」
うんざりした様に蛍さんが言うと、彼はやはりホーちゃん知らないんだなと、付いておいでと言うと、目の前の木戸を押して先に立って塀の下を潜って行きました。蛍さんも仕方なく、彼に続いて木戸を潜りました。
「ほら、」
彼が指し示す場所には、茶色いむき出しの土と沢山の土筆がぼろぼろとそのとんがり頭を奇麗に並べるようにして生え揃っていました。早春の初々しく瑞々しい土筆達です。しかも確りとして立派な佇まいをしていました。
「あれっ」
こんな所に土筆があるなんて…、蛍さんは驚きました。吃驚した彼女が「去年は無かったよね、ここには。」と言うと、蜻蛉君はうんと言いながら、
「この時期じゃないとここには無いんだよ。」
この土筆はこの辺りで一番早く生えるんだと思う。と自分の見解を述べるのでした。