今度は蛍さんの祖父と父が連立って裏の方へ行ってしまいました。居間にはこの家の女性陣だけが残った形です。
蛍さんの母と祖母、その後二人が何か話し出すのかと言うと、嫁と姑は微笑んでお互いに見つめ合った儘でした。何方も何も言いません。特に母の方は何か胸に一物有るような雰囲気でした。姑を見る目に敵意がこもっていました。その儘無言の時が流れます。2人と共に部屋にいた蛍さんも流石に妙だなと感じました。
普段ならねぇちゃんと母に話し掛けて愛想のよい祖母です、また、母にしても、一時も話さないでいられ無い様な性分です。しかも今の母の方は外出直後、何時もなら、外で聞いて来た世間話をのべつ幕なく姑に喋り続ける筈なのですが、全くの寡黙です。この妙な女性同士の沈黙が、幼い蛍さんでさえ異様だと感じて来たので、彼女は傍にいた母の袖を引っ張りました。
「お母さん、外で面白い事があったんでしょう?」
母の方がその話をすれば、この妙な沈黙が崩れて何時もの和やかな家の雰囲気になるだろう、と彼女は考えたのでした。それにしても、今日は一体どうなっているのでしょうか。外でも家でも。彼女にとっては未曽有の体験が続いている蛍さんでした。
「外でなくても、家の中でも面白い事はあるのよ。」
母は娘に促されてそんな言葉を出しました。が、何やら妙な物言いでした。祖母の方もそんな蛍さんの母の物言い癇に障り、機嫌を悪くした雰囲気でした。顔色が険悪になりました。しかし、そんな自分の顔色をジーと蛍さんが見つめているのです。出かかった嫁への買い言葉をぐっと飲み込みました。
祖母はにっこりと笑うと、
「ホーちゃん、お祖父ちゃん達の様子を見て来てくれるかい。」
と穏やかに頼みます。うんと蛍さん、お使いだねと彼女は喜んで喜々として家の裏手の方へと走って行きました。