さて、私が最初に焼いたケーキはレンジのレシピ本通りに作りました。スポンジケーキの土台ですが、多分ご想像通りの表面がごつごつと硬いむっちりとした小麦粉の塊のようなスポンジに焼き上がりました。その頃のお店で売られているケーキしか知らなかった私の目には、ふわふわのスポンジと言うのが当たり前でしたから、これは全くの不出来な失敗作に映りました。私はがっくりと来てしまい創作意欲が無くなりました。
「味は美味しいじゃないか。」等々、父等は言ってくれましたが、母も私同様不満気でした。母の顔色からは、材料費の割に不味かったという、材料費を無駄にしてしまったという後悔の念が感じられました。以降しばらく私はレンジを使ったお菓子作りから離れました。
その後、本格的に何度か試行錯誤を重ねて迄、ケーキを焼こうと頑張る時期が来るのは、私が二十歳を超えた頃でした。社会人になって未だ独身時代の頃、何度目かに思うような味と柔らかさのケーキが出来、私は漸く一つのケーキ作りの目途を立てる事が出来るようになりました。それまでの私の作るお菓子の味は、どちらかと言うと父好みのチョコレート味に片寄っていました。あっさりとしたバニラ味は我が家の味ではなく、母や妹もチョコレートケーキが好みであったようです。それで、レンジのレシピ本から離れて、ある日別のレシピでチョコレート味のケーキを焼いてみることにしました。結果はこれがとても良い出来になったのです。味もスポンジの具合も満足のいくものに焼き上がりました。
このケーキには名前が付いていました。「シバの女王」です。チョコスポンジにゆるく泡立てた生クリームを掛けただけのシンプルなケーキです。ケーキには由来があり、国を訪れたローマ兵に、シバの女王が持て成す為に出したケーキ、それがこれだという事でした。(ローマ兵ではなくソロモン王だったようですね。シバの女王のように、褐色の肌色のチョコレートケーキという意味もあるようです。)
以降は焼き上げたスポンジの間にクリームや果物やジャムを挟んで、表面もクリームやチョコレートでコーティングするなど、本格的にデコレーションしたりして、チョコスポンジにチョコ掛けする、有名なザッハトルテもそれなりに作ったりしました。これ以上進めば、飾りつけの飴細工やチョコレート細工などもするのでしょうが、私はそこ迄行かず、市販の可愛いチョコ菓子やグミ菓子で飾り立てて、コミカルな、如何にもお子様仕立てなケーキのデコレーションケーキ止まりにしています。
私に取ってケーキ作りは、結構根気と労力のいる作業です。作る元気と、食べる食慾がマッチして、暇もある時でないと作成しないお菓子です。食慾が有っても、自分で作るのが面倒になる時は、地域にハンドメイド風なお菓子屋さんがあり、そちらで購入してくるという気力の無さでした。これはビスキュイにするとふわふわの腰砕け状態というものですね。