しかし今回の蛍さんは、裏口の木戸から四角く長方形に切り取られた明るい裏庭が見え、あら素敵ねと、そちらの光景に気を取られていました。彼女は外の光を眺めその光景を物珍しく思いました。そしてその後、『裏口が開いた儘だ』、と、『そうだこれでは不用心だ!』と思い付きました。
彼女は戸を閉めて置こうと裏庭の木戸に近付いて行きます。パタリと戸を閉めましたが、閂の位置が彼女には高過ぎて手が届きませんでした。彼女が戸を離すと、戸は再び開いてしまいます。これでは仕様が無いので、彼女はこの場でその儘居間にいるはずの家の大人達に向かって声を掛けました。
「おーいい、裏庭の戸が開いたままだよー。」
「このままでは不用心だよー。」
何しろ、家の奥から玄関の近くまで声を掛けるのですから、大きな声でないと届きません。おーい、おーいと出来るだけ大きな声を出して声を掛けるのですが、如何いう訳か誰もやって来ないのでした。蛍さんは困ってしまいました。到頭戸を抑える手が疲れてしまった彼女は、仕方なく戸を離すと、皆がいる居間に向かってそれっとばかりに一気に駆け出すのでした。
『早く大人を呼んで来て鍵をかけてもらわないと。』
こう考えた彼女は出来るだけ急ぎました。そして居間に着いた彼女は、そこで家の大人達が父と祖母、母と祖父との二手に分かれて何やら言い合いをしているのを目撃するのでした。父に抑えられた祖母は「そんな女すぐに家から追い出しておくれ」と夫に訴え、祖父の方はそういう訳には行かないと妻をなだめるのでした。祖父は何故こういう事になったのかと事の次第を問い質している所でした。