Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(248)

2018-11-04 12:13:02 | 日記

 しかし今回の蛍さんは、裏口の木戸から四角く長方形に切り取られた明るい裏庭が見え、あら素敵ねと、そちらの光景に気を取られていました。彼女は外の光を眺めその光景を物珍しく思いました。そしてその後、『裏口が開いた儘だ』、と、『そうだこれでは不用心だ!』と思い付きました。

 彼女は戸を閉めて置こうと裏庭の木戸に近付いて行きます。パタリと戸を閉めましたが、閂の位置が彼女には高過ぎて手が届きませんでした。彼女が戸を離すと、戸は再び開いてしまいます。これでは仕様が無いので、彼女はこの場でその儘居間にいるはずの家の大人達に向かって声を掛けました。

「おーいい、裏庭の戸が開いたままだよー。」

「このままでは不用心だよー。」

 何しろ、家の奥から玄関の近くまで声を掛けるのですから、大きな声でないと届きません。おーい、おーいと出来るだけ大きな声を出して声を掛けるのですが、如何いう訳か誰もやって来ないのでした。蛍さんは困ってしまいました。到頭戸を抑える手が疲れてしまった彼女は、仕方なく戸を離すと、皆がいる居間に向かってそれっとばかりに一気に駆け出すのでした。

 『早く大人を呼んで来て鍵をかけてもらわないと。』

こう考えた彼女は出来るだけ急ぎました。そして居間に着いた彼女は、そこで家の大人達が父と祖母、母と祖父との二手に分かれて何やら言い合いをしているのを目撃するのでした。父に抑えられた祖母は「そんな女すぐに家から追い出しておくれ」と夫に訴え、祖父の方はそういう訳には行かないと妻をなだめるのでした。祖父は何故こういう事になったのかと事の次第を問い質している所でした。


土筆(247)

2018-11-04 11:56:39 | 日記

 彼は落ち着くと、何とか順序立てて話が出来そうでした。

「母さんが、俺を叩こうとして足を滑らせて転んだんだよ。俺のせいじゃないんだからな。」

と一気に言うと、これを聞いた祖父はしかめっ面をしました。

「じゃあ、母さんが勝手に転んで頬をぶつけたんだね。」

そうだよと父は言い、祖父に憤懣やる方無いという風にしかめっ面を返しました。祖父は何だか旗色が悪くなったのでした。

「私は何回お前を叩いたかしら。」そんな事を静かに呟きます。叩いただけじゃ無くて何回も蹴っただろうと父はご機嫌斜めでした。

 その時です、如何やら形勢逆転して余裕の出来た蛍さんの父でしたが、居間の方でとんでもない事が起こっているのを目撃して再び気が動転しました。居間から台所へ続く廊下が一直線だったものですから、居間の方向を向いていた父は、自分の母と嫁が取っ組み合っている場面を直に目にしたのでした。彼は緊張して頬が強張りました。

 「父さん…」

彼は父に近付くとその耳元に囁きました。

「母さんとあれが喧嘩しているぞ。」

「あれ?」と蛍さんの祖父は誰の事だろうと居間の方を振り返りました。すると、遠く、キーという声や、キャーという声が聞こえてくるのです。これは一大事とばかりに、息子と父は慌てて今度は居間の方へと連立って駆け出して行きました。台所の端にはまたもや蛍さんだけが1人とり残される事になりました。


土筆(246)

2018-11-04 10:54:13 | 日記

 「何か言いたい事があったらはっきり言ったらどうです。」

と、祖母の物言いの声が蛍さんの耳に入りましたが、裏の方へと急ぐ蛍さんにはその後の母と祖母のやり取りは全く聞こえなくなりました。蛍さんが家の奥へ行くと、父と祖父は裏庭にはまだ出ていませんでした。彼等は奥の台所の端の方で言い合っていました。

 「だから、俺は母さんには手なんか出してないんだ。」

と父が言うと、

「なら何故母さんの頬が赤いんだ。」

と問う祖父の声がします。2人に近付いて行く蛍さんの耳には段々と父と祖父の話のやり取りが聞こえて来るようになりました。

 「それは、母さんが転んだからだよ。」さっきから言ってるじゃないか、母さんが転んで廊下の柱にぶつけたんだよ。と父が言うと、「じゃあ何故母さんが転んだんだい、お前が押し付けでもしたんじゃ無いのか。」という祖父の声、それは…、と父は言い掛けて、蛍さんが自分達の側に寄って来たのが目に入り口を閉じました。

 「それは、何だい?」

と祖父、父は黙って祖父の後ろを指さしました。祖父は後ろを見ないで何だいと聞くと、父は「蛍がやって来たから。」とだけ答えました。そこで蛍さんは、

「お祖母ちゃんが、お祖父ちゃんとお父さんの様子を見て来てって。」

と声を掛けると、漸く祖父は蛍さんの方へ向き直りました。「お祖母ちゃんが?」どういう事なのだろうと祖父は考えましたが、そんな祖父に、ここで漸く自分の方は御留守になったとばかりに父の方は一息付くのでした。