これには父も全く手を焼いて仕舞うのでした。仕様が無く父は蛍さんの傍を離れ、立って行って蛍さんの母に相談してみるのですが、母の方は父以上に蛍さんに無頓着でしたから、私ではらちが明かないでしょうと型通りの返事をするだけで、父の相談には一向に乗る気配が有りません。こうなると父の頼みの綱は両親である蛍さんの祖父母でした。
ところが、祖父母とも孫の嫌がる事をすることは無いよと、嫌だというなら嫌でいいじゃないか、年端も行かない子の事だ、何だかんだ言ってもその内忘れるよと、案外悠長に構えて2人共に父の相談には乗ってくれないのでした。
「そうは言うけど、茜に頼まれてるんだ。」
と、蛍さんの父。「茜に?」茜さんの名前が出ると、祖母の方は父の話に乗って来るのでした。
「どれ、可愛い茜の頼みなら…」と、祖母はこれこれと、経験から息子に、ご機嫌斜めの子に対処する物言いの言葉を教えるのでした。喜んだ父は、最初は嬉しげに母の言葉を聞いていましたが、段々うんざりとした顔で伏し目がちになってしまいました。…話はまだまだ続きます。
「母さん、母さんから言ってくれないか。」
父は頃合いを見て自分の母に言いました。とても母さんの様にうまく言えないと、自分の母をおだてるのでした。
さて、祖母はそうかねという様にこれを二つ返事で引き受けると、どれと蛍さんのところへやってきて彼女に声をかけました。蛍さんも祖母のいう事なら嬉しそうに顔を上げて聞く気になるのでした。