「その本は大人でも、否、生徒でも、嫌がって読まないような本だ。」
学生は読むがな…。顔を背けて、ふっと笑いを漏らすと父は言った。
そんな辞書という調べるのが面倒な本を、これは言葉を調べる本なんだよ、その為あちこちページを繰るんだが、それが面倒で皆嫌がるんだ。そんな本なんだよ。実際私も好きな物じゃない。それを、そんな本を、まして年端も行かないお前が読もうだなんて、大した大望を抱いたものだな。如何いう風の吹き回しなんだかと父は言った。
この言葉に、私はカチン!と来て癇に障った。
「お父さんが読めと言ったんじゃないか。」
私が!?と、意外な声で、父は合点のいかないような返事をした。言ったかなぁ?、…言っていないと思うがなぁ。合点が行かないなぁと、彼は本当に首を捻っている。それは私の方だと私は思った。
「言ったよ、言った!。」
私は彼に主張した。
父は如何とも、判断の付かないような顔付をして立っていたが、お前なぁと、何でもお父さんのせいにするなと言う。
「分かった、それで母さんがああ言ったんだ。」
彼は先刻自分の母に、おまえのせいだと言われた事を私の言動のせいだと邪推した様子だ。そうだなと直感した私は、即刻抗議した。
「違う!。私のせいじゃない。」
すると父は驚いたような顔をした。違う、違うとは?と訊いて来る。私は祖母の前で何が知らかを父のせいにしたり、そうだと言って訴えたりした事は無いと彼に主張した。
「だから、お祖母ちゃんがお父さんが悪いと言ったのは私のせいじゃない。」
私の言葉で祖母が父の事を判断するような、告げ口等私はしていないと彼に説明した。父はそうかなぁ、過去にはしてなかったか、と、案外しつこかった。