Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 38

2020-09-11 10:49:56 | 日記
 その後祖母は沈黙を続けていたので、気詰まりという言葉も未だ分からない私だったが、何かこちらから声を掛けなければいけないという様な考えを持った。そこで未だ横顔しか向けて来ない彼女に対して、今迄の彼女の言葉の内から、私の使えそうな言葉をあれこれと思い返してみる。そうしてせっせと彼女に向けて言う言葉を考えてみた。

 「お祖母ちゃんとお祖父ちゃんには怖い物が有るんだね。」

私は祖母の顔をそれとなく窺いながら漸くそんな言葉を掛けた。それから遠慮がちに、それは困った事だね。そう付け足してみた。こんな風に私が祖母に声を掛けると、祖母は未だ横顔を向けた儘だったが、私の言葉に耳を傾ける気配が窺えた。もう少しだな、と私は思った。彼女の顔と気持ちを普段の様に私に向けるには未だ更なる言葉が必要だと感じた。そこで私は再び次の言葉を考えてみた。今し方の祖母の言葉を順に考えた時、私には特に興味を引かれた言葉があった。それを彼女が喜ぶ様なお愛想を込めて言ってみようと私は即断した。

「お金が沢山あるんだね。お祖母ちゃんにも。」

と、微笑みを称え、明るくにこやかに彼女に声をかけた。蓄えがお金の事だという事を、私は今迄の祖父母間や、彼等と私との間の語り合いから学び、既に聞き知っていた。しかし、一家の大黒柱である商売人の祖父に、大きな資産が有るのは当然と思い、そう聞き知っていても、祖母に迄となると、それは私のこれまで得た知識の範疇を超えていた。私には未だ想像さえ出来ないでいた事だ。これは私に取って生まれて何度目かの未曾有の経験である。この未知との遭遇に、私の心中はこの経験を新鮮な感動で受け止めようとした。大きく心を開いて、彼女の一挙手一投足を見逃すまいと眼を大きく見開いた私は、先ず祖母の顔つきを見つめた。

 「お祖母ちゃん、女なのにそんな大きなお金が有るなんて偉いんだね。」

これは私にすれば心中半信半疑の出来事だった。何故ならば、私にするとこの世の中は未だ男尊女卑の世界であり、私はその真っ只中にいたからだ。私が住むこの近辺は、古い商店が立ち並ぶ老舗の街といえた。何処も旦那さん、だんさんという諂いの言葉が飛び交い、奥さんの方は皆揃って器量よし、場に花を添える存在が目立つご時世だった。確かに、商いの腕が立ち、おかみさんの切り盛りが目立つお店も有るにはあったが、ごく少数で、そこにはご主人も必ず居て、でんと構えたその店の要として店先等にいたものだ。それまでの私の認識では、こと収益に関する経済で女性の影は薄かった。全く皆無と言ってよかったのだ。私は女性としての祖母の蓄え、それも可なり大きいという箇所に、俄然興味を持っていた。

 「初めての経験は大切にしろよ。」

父は私の初まってそう長くない人生経験での、いくつ目かの初めての感動話を、ある日聞いてからこう言ったものだ。「そんな感動も、新鮮さが有る物は段々と数が減るからな。」、これを世慣れると言うんだ。お前も今の内にそういう経験を味わっておくといいぞ。新鮮だからな。そんな感情。そんな事を言った。皆目実態の捉えられない私に、

「兎に角、自分にとって初めての事は、自分の目も心も大きく開けて受け止めようとする事だな。」

と言うと、うんとばかりに、それは自分の人生で新鮮な物だ、と、彼は結んだ。

うの華3 37

2020-09-11 10:21:55 | 日記
 この歳になると、孫も何人か目になると、祖母はおずおずという様な感じで語り出した。

「何でも考えてみるようになるんだよ。」

この身代もあるしね。どの子とか、その孫のどの子に如何とか…。

 そう言いながら、俯いた祖母の私を見る目がしばしばと、瞬きを重ねる様な上目遣いとなった。私は未だ坐した儘だった。その為、私はこの祖母の下からという様な目線を奇異に感じた。私の方が偉い立場にある感じがして妙に思えたのだ。私もまた祖母の真似をするように目を瞬いた。

 一旦途切らせた話を、祖母は続け始めた。

「お父さんと私には、」

このお父さんはお前のお祖父ちゃんだが、お祖父さんとこの私の事だよ、私達には大した蓄えが有ってね、それは相当に大きいんだよ。膨大というんだが。それを…、祖母は口ごもった。狙うとか、取られるとか、…そういった事だよ、私やあの人が恐れている事は。

「子どもはいいんだよ。私達2人の血筋なんだからね。如何使おうが、その結果如何なろうが。」

「問題はその連れ合いやその先の何某かだよ。その血を分けた細かいのとか…。ね。」

 そこ迄言った祖母は妙に目を見開いて私を見詰めて来た。そうしてねめねめとした目付きになり、ふんと、何だか意地の悪そうな表情で私を見詰めると、そこで彼女はプイっと横を向き、再び私の方へ顔を戻そうとして戻し切らずにいた。

 見詰めている私に、彼女は顔だけやや斜に構えた様な格好で正面を見せると、手を先程からと同じ様に前掛けの前に組んだ儘で立っていたが、その顔だけをしげしげと私が見詰めてみると、申し訳の様にちらりとだけ私に視線を投げ掛けてよこした。が、その後もやはり祖母は私から顔だけ背けていた。

 「騙されたくは無いんだよ。私もお父さんも。」

このお父さんは祖父の事だな。咄嗟にだが私は思った。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-09-11 09:25:53 | 日記

うの華 46

 母の出奔先はと言うと、今回は直ぐに実家という訳にも行かなかったようだ。我が家へ戻って来たのも思ったより遅く、家から姿を消して4、5日経ってからの事だった。「日数が経つとそれだけ敷......

 暫く1日の天気が曇りから雨と、連日続く予報です。なので今朝のお天気はよく、ここ数日がそうだった様に晴れた空が覗いています。これが午後には雷雨等有り、今日も雨の確立は60パーセントなので、ここ数日暑さにも一息吐ける感じで今週後半が来ています。
 今週を振り返って、庭に蔓延ってきて困っている山の芋蔓に、庭の整理も兼ねて除草剤を掛けた時の事です。古いプラ鉢の、材質が脆く変質した物で、以前壊して壊れ切れなくて、底だけ残っていた物が有りましたが、その底の部分に、ぺったりとプラスチックの様な二筋の模様が有るのを見つけました。長さ30㎝程、幅は4㎝程でしょうか。乾燥してきれいに模様がざらざらと見えるものでした。この抜け殻本体の後半部分でしょうか。1つの先は細く尖った感じでしたから。
 と、私に取っては思い出したくも無い物を発見しました。一般的な人が嫌いなように私も嫌いな動物です。それが庭にいて、縁から庭に降りる踏み台の上に置いてあった、プラ鉢の残骸で脱皮した訳です。嫌だわ、でした。しかも、そのプラ底をゴミ袋に入れる時に、とても生臭い匂いが漂いました。それでそこを住処にしていたのかもしれないと思うと、困った物だ!でした。嫌ですよね。
 庭は家族が殆ど出る事が無く、毎日廊下から草木の様子を見ては、時折殺虫、除草剪定と管理しているだけでした。ここは6畳か8畳ほども有るでしょうか。小さな庭というような大きさです。こんな狭い場所に、来るんですね。嫌な動物。
 嫌な物は嫌な物なので、即、庭や玄関先の鉢周辺に木酢など撒いておきましたが、効果があるかどうか。玄関先にも十数年前に小さな物が忍んでいて、鉢を移動した時に足元にポタリ、にょろりと。相当ビックリでした。
 市街地が過疎化して、私の幼い頃には見なかった動植物を実際に見聞するようになったのが2000年前後からです。鳥は物珍しく可愛いですが、雨蛙が住むようになり、こういった爬虫類の大小の物が目に付くようになる回数も近年は増えて来ました。思い返すと、近所に所々の空き家が増えて確実に過疎化が進んでいます。家の近辺や地域が、人より自然の動植物の勢いが勝るような環境になって来ているのを、近年は益々感じます。