そんな祖母の顔や様子を、私は文机の前に座しながら、やや横から斜めに見上げるという様な面差しで眺めてみた。沈黙したままの彼女は酷く気落ちしているように見える。その姿は恥ずかしそうに見え、何がしかの反省をしているように私には思われた。
それから私は、そんな沈んだ様子の祖母を見つめる事が酷く悪く思われて来た。私は彼女から目を離すと、再び鞭に目を移してみた。やはりこれは不気味だ。微細な煤が細棒から噴き出て来そうな漆黒の闇を感じる。私は身震いした。
これはムチという物?、そして、『そんな母親』…か。ふむ、ということは、…。祖母が自身を卑下したように言った最後の言葉が私の心に引っ掛かった。『お祖母ちゃんは、自分が悪い人だと言っているのだ。』、ハッとして私は思った。
「お祖母ちゃんは、悪くないよ。」
反射的に、祖母に向き直った私はきっぱりと言った。「お祖母ちゃんは良い人だよ。」。そう言うと祖母は緊張した面持ちの中に煩悶するような表情を覗かせた。彼女はその後やや寂しそうな表情で私の顔を見ると、お前と言い掛けたが再び黙った。
その後の祖母は、彼女を見守る私の目の前で複雑な変化の表情を覗かせた。その中には怒りの感情も有り、それと分かると私はドギマギした。
「お祖母ちゃん、怒っているの。」
そうっと、私は祖母に尋ねてみるのだった。
祖母はやはり沈黙して暫く静かな儘でいたが、両手を着物に着けた前掛けの前で組み合わせると、否と、
「否、お祖母ちゃんは怒ってなどいないよ。」
と、答えた。