教えられないね。いくら孫のお前でも。そんな言葉を小さく呟くように口にしながら、それでも彼女の瞳は笑っていた。
「皆聞きたがるんだけどね…、この事は人に言うなとあの人からも口止めされているし…。」
祖母はふっと視線を落とすと表情を曇らせた。彼女は何かを思い出したのだろう、その後空間に目を戻して遠い所を見る様な面差しに変わった。
「それに、この話をした時はあの子も気に入らない様子だったし。」
祖母はポツリと言った。
ここに住めてあの子は嬉しがっていたけれど…。祖母は思い出に浸り始めたのだろう、傍にいる私に語り掛けるというより、独り言の様な話し方に変わっていた。
他の子達だって、この家は気に入っていたのに。私の話を聞くとそっぽを向いたりして。中には怒りだす子もいてね。如何いう物だか、こっちの苦労も知らないで。
彼女の言葉が途切れると、祖母は私に背を向けるようにして2階の廊下に目を遣った。その向こうには古び崩れかけて来た土壁が見え、私達の住む家の剥き出しになった内部が見えた。壁には年代物の木の窓枠と、その窓にはめ込まれた曇りガラスが見える。私は祖母の視線を追うと、切子模様の細かな突起が施された部分を持つ窓を見詰めた。いいや、祖母にすると彼女の瞳に投影していたのは、ガラスの向こうから差し込んで来る太陽光の明るい光に透けて見える様な、往時の往来の懐かしい光景だったのかもしれない。