男客はハッとした顔付きで顔を上げた。彼の目の前正面にいて、真っ向から彼を見詰めていた彼の長男の嫁はこの時、彼女の唇をきゅっと噛むと一瞬顰めっ面をした。その為この時の彼女は舅の目から自分の嫌悪感を浮かべた渋面という物を隠し通せ無かった。嫁は舅に自分の憎悪を浮かべた表情をあからさまに晒してしまったのだ。彼女は仕舞ったとハッとしたが、後悔先に立たずと思うと直ぐに臍を噛んだ。『お義父さんの前でこんな顔を見せるなんて…。』彼女は自らの迂闊さを恥じる様子で赤面した。彼女は頬が熱くなって来るのを感じた。
目の前で赤くなり、恥じ入る様に俯いた嫁に、思い掛けず舅は何やら嬉しそうな笑顔をみせた。「お前さんでもそんな顔をする事があるんだね。」「私は初めて見たよ。」それは安堵した様な彼の朗らかな声だった。嫁は恐縮すると益々恥じらった。目を小さくして彼を見た。
「いいんだよ。」
舅は嫁である彼女に言った。
「人だもの。」
人間というのはそんなものだ。感情が有るものだよ。喜怒哀楽だよ、敵性語、あちらさんではフィルとか言う、あの感情だ、よく言うだろう。彼は真実嬉しそうに彼の目を細め義理の娘を見守った。本当の心の内を私に見せてくれた事の方が私は嬉しいけどね。そんな事を彼は続けて言うと、彼女の反応を待つ様に微笑んだ儘彼の口を閉じた。
「お、お義父さんたら…。」嫁は口ごもった。「な、何を…。」と、次に口から出る言葉が咄嗟には思い付かない彼女だった。頬を染めた儘でやや顔を上げると、彼女は目を瞬くばかりだった。そんな嫁に、可愛いいなぁ、何さんはと、舅は嫁の名を言うと頬を染めて嘆息した。
そんな母と祖父の2人の様子に、あからさまに機嫌を損ねた顔付きをして、苛立った景色を見せたのが、テーブルで同席していた姉妹の妹の方だった。
「何か、不愉快やわ。」
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