そんな蛍さんの憤慨して苛立つ様子は、蜻蛉君にとって小気味良いものでした。内心、彼はしてやったりとニヤニヤしてしまいます。自分達は勝利を続ける小生意気な彼女に言い勝ったのだ!とばかりに浮き立つと、心なしか余所余所しくなった茜さんの変化には気付かず、並んで立っている彼女に親愛の笑みを向けました。茜さんは彼に応えてやや引きつった微笑を返しました。そこで彼は、満足気に自分の番の石を投げました。
その彼の転がした石は極めて順調に転がり出しました。彼の手を離れると穴まで一直線です。これ以上の石運びは無いという様な軽やかな進み具合で、ころころと彼の穴に向かって転がって行きます。
「よし!」
と彼はガッツポーズを取りました。しかし皆の目の前で石は見事に窪みへ飛び込み跳ねると、今までの方向を変えました。自分の穴に向かって一直線とばかり思って有頂天になっていた彼の予想を全く裏切り、如何いう訳かころころとコースを外れて行くばかりです。石はそのまま全くあらぬ方向へと転がりだして、誰の目にも完全にゲームの盤面から外れたと言う形になりました。それは差し詰めボウリングならガター、そのまた外へ大外れというものでした。
『ハハハ…』それを見ていた蛍さんが内心愉快に笑ったのは言うまでもありません。
『人の親切を無にするからよ!』
彼女にすると、蜻蛉君の勝ちたいという気持ちが分かっていただけに、今日の勝負は譲って上げてもよいという気になっていました。 唯、わざと負けるというような器用な真似が彼女には出来なかったので、相手の頑張りを応援するしかなかったのでした。
『せっかく注意してあげてるのに、そんな人の気持ちや親切を無視して、無駄にするからこういう罰が当たったような事になるのよ。』
蛍さんにすると蜻蛉君の投石の結果、これこそが天罰てき面というものでした。世の中本当にちゃんと神様、仏様が見ている物なのだなぁと感じ入りました。
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