「えっ!、もう来ないの!。」
舅はあからさまに、如何にもお驚いたという様な声を発した。いなくなったの?、あの人達が?。舅は如何にもという様に疑いの眼で、間の抜けた様な声で嫁に問い掛けた。
「あんなに沢山で、威勢よく、肩で風を切って世の中を闊歩していた人達がだよ⁉︎。」
ええと嫁は笑顔で頷いた。「本当に?。1人もかい?。」舅はあくまで信じられないという様子で、へーえという様に感嘆してみせた。
「もう1人もこの世には残っていませんよ。」
あんな人達はね。如何にも清々したという感じになると、嫁は彼女の舅と語り出した。『よかった、お義父さんのこの何時ものおふざけの調子では、話が離縁話じゃ無いのは確かだわ。』彼女は確信した。
もう怯えなくていい、良い時代になった。あんな人達2度とごめんだ。あんな暗い酷い世の中にはもう戻りたくないねと、そんな戦中の苦情話をボロボロ始めた2人だが、共に和やかに当時の事を零した。
やがてああと、共に嘆息した彼等2人は共に肩を落とし、思い思いにややしみじみとした感に囚われていた。が、それから直ぐに2人は笑顔を取り戻した。そんな嫁舅、彼等は次に歓喜に満ちた瞳で見つめ合うと、何方からとも無くテーブルの上でルンルンらんらんと手を繋ぎ、にこやかに和気藹々と浮き立つた。それからの彼等は、現代の明るい時代の話に移った。
「民主主義、自由主義の世の中ですもの。」
彼女はこれが当たり前、現代の世相だと口にして、内心ハッと思い当たる物を感じた。
『自由主義、自由…、』
彼女はこの単語に何かしらの引っ掛かりを感じたのだ。『自由、?…。』
「お義父さんたら、おふざけが好きなんだから。」
もうと、表面義理の父のお芝居に騙されたという文句を口にしながら、過去にこの舅と同居していた彼女は、目の前の舅の明朗闊達、しかも洒脱な性格をよく把握していた筈なのにと、彼が興に入った直後、即座に彼の含む調子に合わせられなかった事を無念に感じた。『過去には直ぐに判じられたものを…。』そう思うと、現在彼と別居してから久しくなる年月を感じ、彼女は漫に寂しい気持ちが湧いて来るのだった。『自由か…。』彼女は思った。
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