『私も覚悟を決める時期かしら。』そんな事を考えて静かになってしまったおばさんに、私は
「ねえ、おばさん、『あなた』って…」と最初に出て来た単語、私がいの一番に抱いた言葉への疑問を口にしたとたん、目の前でピシャリと障子戸が閉められてしまい、それ迄私の目に映っていた婦人は忽然と視界から姿を消してしまいました。私の目には唯々白い障子戸が映るばかりです。まるで何かの舞台が終わったように辺りはシンとしてしまいました。
おーい、
「おーい、そんな所で何してるんだい。」
その場で、障子戸を見上げた迄でいた私の耳に、遠い所からの声が入って来ました。その声に気付いて広場の方向を見ると、遥か遠くに小さく何時もの遊び仲間の男の子が見えました。私が彼に気付いたと分かると、彼はさも合図する様に手を高く上げて私に向かって振りました。
私は、この場をその儘にして去ってよいのかどうか判断に困りました。このまま広場へ行こうか如何しようか、またおばさんが窓から顔を出して、黙って私がいなくなっていたら怒るんじゃないか、そう思うと、判断がつかない私は障子戸の下でぐずぐず躊躇していました。彼はそんな私を不思議に思ったらしく、急いで傍迄駆け着けて来ました。
「こんなとこで何してるんだい。皆行っちゃったよ、僕等も早く行こう。」
そう言って急いで私の手を握り、さっと駆け出そうとしました。
「でも、」
私は彼の勢いに動じずに障子戸を見上げると、未だ彼と行こうか如何しようかと迷っていましたが、その向こう側にはもうおばさんはいない様だと感じていました。私はそれでも念の為と考えると、
「おばさんごめんなさい。気を悪くさせたようで申し訳ありませんでした。」
「お友達が誘いに来たからもう行きますね。」そうその場にそれだけ言い残すと、もうこれでこちらの方は気が済んだからとばかりに一目散、それ行けと、私は彼と手を繋いだ儘勢いよくバタバタと駆け出しました。2人はお互いの走りを競う様に広場に向かって全力疾走したのでした。
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