しかし私は、この時思った事を口にしなかった。祖母の少し前の言葉、お前嬉しそう云々、に注意が向いた。
嬉しそう?、そう見えたのかな。と思うと、何方かというとほっとしたのだけれど、と私は思った。お祖母ちゃんが離れて行った事で、自分があれこれと話し掛けて、彼女を困らせないで済むと思ったのだけど。…そうだなぁ、と私は考えた。嬉しい?…。
『確かに、私は喜んだのかもしれない。』
そう私は最終的に結論を出した。祖母の言う事は当たっている。
確かに私は喜んでいたね。そう祖母に言うと、祖母の方は何の事だいと、今度は彼女の方が判然としないという有様で、不思議そうな顔をした。
「お前のいう事は、する事もだが、一々反応が分からないね。」
祖母は本当に分からない様子だ。私は、自分の状態を説明する事になった。
私は祖母の困っている様子に、彼女が私の傍から離れて行く事で、興味を持った私があれこれと彼女に質問して彼女を困らせるという事態が無くなり、私は良かったと思ったのだと、自分の頭の中で考えを巡らせ、それなりの言葉を使って説明した。
祖母は、半分理解して、半分は不明瞭だという様な面持ちで、ははあと言った。
「すると、お前は私の事を考えてくれたんだね。」
自分の事よりかい。そう言うと、祖母は不思議な事だねと首を傾げた。お前のような歳で、それに、他の子供達には無かった事だよ。そう言うと祖母は暫し考え込んでいた。が、それにしてもと、「やはりお前変わっているよ。変わった子だね。」と、祖母は小さく呟くように私に言った。
その後やや間をおいて、その場を仕切り直すように軽く手振り身振りして体を動かすと、彼女はその顔に微笑を取り戻した。
「秘訣を知りたく無かったのかい。」
お金儲けの秘訣、秘密だよ。お前はそれを知りたくなったんだろう?。普通はそうだよ。お前だってそれを知りたい筈だ。そういう祖母の弓形の目の顔付きや、声音の愉快そうな雰囲気に、気圧された部分もあった私はやはり祖母と同様微笑んで目を細めた。
私の目に室内の風景は狭まった。この目は視界を狭くすると私が感じていると、それごらんと祖母は言った。
「危うく騙されるところだったよ。」
私が普段通りの大きさに目を開いて彼女を見ると、私の目の前の祖母は半身を逸らせ、その顔はと見ると頓狂な顔付になり口を窄めていた。私は祖母の百面相に大いに驚いた。
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