Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3 163

2021-05-28 13:43:11 | 日記
 それなぁに?、子供達が不思議そうな顔付きをすると、彼女の手元を見詰めて訊いた。子供等の母で有る彼女は、暫く子供達に答える事なく黙った儘逡巡していた。手切金?、全く思いも掛け無い話だ。店主の勘違いだと思うと、彼女は内心彼の事を侮蔑してしまう。さっき迄は良い腕前だと思い、彼に対して上流階級の雰囲気を感じていたのに、やはりこんな所で食堂を開く様な男では、本当に、こんな場面ではそんな事しか思いつかないのだろうさ。と彼女は思った。

 彼女は子供達の質問を他所に、今手に持った小切手帳をこのまま受け取って仕舞って良いものかどうかと迷っていた。こんな時夫なら如何するだろうか?、とも彼女は考えてみた。『夫に断り無く自分がこれを受け取って仕舞ってよいのだろうか?。』容易に答えの出せ無い彼女だった。

 「お義父さん、困ります。」彼女は舅に声を掛けた。「あの人に断り無くこんな大事な物を、」彼女は口から出す言葉に迷っていた。「自分の方で受け取って仕舞って良いのかどうか。」彼女はそう言うと、再び困りますと言って言葉を結んだ。

 それに対して舅は「いいんだよ。」と答えた。あれもそうしてくれと言っていたんでね。彼は嫁にそう打ち明けると目を伏せた。彼自身も言葉を選ぶ様子で、テーブルの上に彼の視線を這わせていた。

 いいんだよ。もうそれはお前さんの物、お前さんの家族、お前さんの家庭の物なんだよ。その話しはあれと私の間でもう話してあって、既に共に了解済みなんだ。と舅は嫁に明かした。

 嫁は腑に落ちない物を感じていた。夫名義のこの帳面は、確かに舅が、彼の惣領息子である夫の為に蓄財した物の物だろう。だが、何故今これが自分の手に渡されたのだろうか?。如何にも彼女にはこの事が要領を得無い状態だった。「でも、何故、今?。」彼女はそう舅に問い掛けてみるのだった。店主の言った言葉は確かに自分も聞いていた。が、と彼女は思う。しかし全く彼の言葉を鵜呑みにしていなかったのに、『まさか、そんな話のお金では無いだろう。』と、彼女はこの時にも再び思った。

 舅はポカンとした顔付きになるとやや口を開けた。彼には嫁で有る自分の反応が意外だったのだろう。彼女にも彼の反応が意外だった。嫁舅、共に判然としない状態で暫し互いの顔を見詰め合っていたが、ではと、舅は言った。

 「あんたは何も聞いていないんだね。」

あれから。と、彼は自分の息子である彼女の夫の仔細を、息子の嫁である彼女に確認した。ええと、それに対して彼女も会釈して言った。「私は何も聞いていないんです。この件について思い当たる様な話しは何も。」そう言うと、彼女は舅の説明を待った。

 彼は言い淀んでいた。「ええと、…。」何から説明したら良いかと彼は考えていた。目の前の息子の嫁に、酷く衝撃を与えない様にと思うと、彼は話す言葉を選び、説明する為の出来事の、話の順番を考えてしまうのだった。

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