落ち着いたところで女の子2人は帰途につきました。仲良く並んで帰って行くその後ろ姿を屋内から見詰めながら、あんなに小さくても女性は女性なのだなぁと、感慨深く溜息を吐く人がいました。
「何をご覧になっておられるんですか?」
その声にご主人は振り向きました。いつの間にか連れ合いの奥さんが後ろに来ていました。
「いやぁ、狸と狐がね…。」
とこの施設の管理人、ご夫妻の夫に当たるご主人が答えます。「狸?」と、奥さんが驚きました。ここにも狸がいるんですか?こんな街中にねぇ、そんな物は出ないと思っていました。奥さんがそう言うと、ご主人は本物の獣じゃないよ、比喩だよ比喩と言われます。
「狸と狐のばかし合い、よく言うだろう、あれのことだよ。」
そう言うと、去っていく子供達の後ろ姿を妻に目で示します。奥さんも子供達の後ろ姿を見つけて眺めましたが、自分の夫の言う意味がうまく理解出来ませんでした。そこでそれと感じたご主人は、あんなに小さくても女性は女性だと感じたんだよと言ってみます。「それで、女性と『狸と狐のばかし合い』がどう結びつくんですか?」と、尚更に奥さんは如何にも不思議だ面妖だと言わんばかりに、穴のあくほど自分の夫の顔を見詰めると彼に尋ねるのでした。
ここでご主人の方は内心『これはしまった。』と思いました。余計な事を細君に言ってしまったと後悔したのですが、時既に遅し、後の祭りという物でした。そ、そ、それは、とご主人は暫くあれこれと自分の細君に説明のような言葉を並べて見せると、
「いやあ、狸と狐でも、幼い内は可愛い物だね。」
にこやかにそう言いました。そして、あんな可愛い物でも大人に育つと男を騙すのだ、と、苦々しげに言って言葉を切るのでした。
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