結構昔、10歳になるかならないかという頃、私の寝室(実は両親と共に寝ていたので、私だけの部屋というわけではありませんでしたが)には日めくりカレンダーかけてあり、1枚1枚に「偉人の言葉」または「英雄の言葉」というものが書かれていました。もちろん印刷です。
「人間は考える葦である パスカル」
というような感じです。
もっと書き出そうと思ったのですが、他に思いつくものがこれから書く一つだけなので、思いつく方は様々な先人の言葉を思い出してみてください。
世界の偉人、日本の偉人、など、年によって掛けられる日めくりの言葉は違っていましたが、その年は「日本の英雄の言葉百選」であったように思います。百選というからにはカレンダーではなかったかもしれません。
「人の一生は重荷を負うて行くが如し、急ぐべからず、焦るべからず」
というような言葉があったと思います。徳川家康だったような気がしますが、昔の事なので定かではありません。
重荷という言葉が何故か父には共感を呼んだようで、この冊子を吊るした時からこのページを目に留め、私にも声に出して読んで聞かせるなど、特別なページだと私に感じさせるものがありました。
この冊子のこの言葉が私にとって印象深いのは、他にも特別な思い出があるからです。
ちょっと気になって検索してみました。徳川家康の言葉に間違いなかったのでほっとしました。
正確には「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し。 急ぐべからず。」のようです。
さて、この冊子は幾つかの言葉をめくり飾られ、1ヶ月ほど後には徳川家康に落ち着き、このページだけが吊るされるようになりました。
時折父が口に出して読むので、側にいた私も日々人生の重荷を感じるようになりました。
思い出してみれば小学3年生の頃、それは9歳の事であったかもしれません。
人生にそんな重荷があるとは、晴れやかな人生を夢見ていた少女が将来について漠然とした不安を感じ、影の兆しを感じたそんな頃。
あれは4月から梅雨に入る前の頃、気候や明るさ、湿度の爽やかさなど、思い出してみるとその頃のように思います。
ある日の日中、不意に祖母が私達の部屋に来ました。または来たのを見たであったかもしれません。
この時私は1人、この冊子の言葉を見る祖母の姿を目にしたのでした。
また、私は祖母を二階で見るのが初めてだと感じていました。とはいえ、部屋と祖母の組み合わせに違和感を感じていませんでした。
それは日中の落ち着いた光景だったからでしょう。光の入る縁先、障子戸の側に立つ何時もの祖母。和室と和装の女性、階や部屋が違っても何時も見慣れている人物の光景だったからです。
戸外を思いやりながら障子戸の傍ら、採光の中に佇む婦人。思いやっていたのは家内であったのかもしれません。