今回の「カラヴァッジョ展」図録を読むと、その執筆陣の多様さと内容の濃さに驚く。最新の史料を基にした研究成果を併せて知ることができ、世界水準の図録、と言ったら褒めすぎだろうか?
そんな心強い(手強い)図録を手元に置きながら、というのも気が引けるのだが、美術ド素人の感想文も展覧会の章を追いながら書いて行きたいと思う。勝手気ままな感想文になるので、どうぞご容赦を...(^^;;
ということで、本当は《法悦のマグダラのマリア》と同じく初見であった《メドゥーサ》の感想を書きたいところだが、こちらも後日の楽しみとしたい。
Ⅰ)風俗画:占い、酒場、音楽
【占い】 メインのカラヴァッジョ作品は《女占い師》だった。この騙し騙されるという、いつの時代でも見られる現ごとが、カラヴァッジョの筆を通して、当時いかにも居そうなジプシー女とニヤけた若者の姿で描かれている。手相を見るふりをして指輪を抜き取ろうとするお姉さん。
カラヴァッジョ《女占い師》(1597年)カピトリーノ絵画館
やはり私的にはお姉さんの白ターバンのフサフサやお兄さんの袖口のレースが好みで、特に袖レースはキンベルの《いかさま師》を想起してしまう。初期の風俗画は後の明暗を強調する描き方よりも明るく、画家本人の性格とは異なる(!)おおらかさが感じられる。
今回展示のカピトリーノ作品の他にルーヴル作品も存在するが、私的にはルーヴル作品のお兄さんの方が気に入っている(^^ゞ
カラヴァッジョ《女占い師》(1597年頃)ルーヴル美術館
このカラヴァッジョの革新的な「理想ではなく現実」を描いた風俗画が、当時ローマで持て囃されたことは難くない。いわゆるカラヴァッジェスキたちが競って同主題作品を描いているのだから。
今回はシモン・ヴーエ(Simon Vouet, 1591-1649年)の《女占い師》が同主題代表で展示されていた。
シモン・ヴーエ《女占い師》(1618-20年)パラティーナ絵画館
ヴーエ作品を観ると、カラヴァッジョ中後期の明暗とともに、より下世話な庶民の生活感が込められているように感じられる。なにしろお兄さん(おじさん?)は鼻の穴をふくらませているような(笑)。
ヴーエ作品が描かれた頃にはカラヴァッジョは既に亡くなっているが、騙し騙されの風俗画主題がローマで流行し、更にイタリアを超えて北方にも流行し続けたことが窺われる。メトのジョルジュ・ド・ラ・トゥール(Georges de La Tour, 1593-1652年)《女占い師》などもその例だと思う。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《女占い師》(1633-36年)メトロポリタン美術館
多分この主題を好んだ(購入する)のは男で、騙す方が一様に女であることに苦笑してしまうが、教訓画というよりも自虐的な笑いが好まれたんじゃないだろうか??と思うのだよね(^^ゞ (続く...)