花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

エルミタージュ美術館アムステルダム分館「Treasury!」展の感想(1)

2019-03-16 00:57:10 | 展覧会

アムステルダムで観たエルミタージュ美術館アムステルダム分館「Treasury!」展の感想をサクッと。

https://hermitage.nl/en/exhibitions/treasury/

 

エルミタージュ美術館アムステルダム分館

この展覧会は時代や地域の異なる美術作品をペアで並列展示し、テーマ設定や組み合せの妙とともに、観る者にその文化の違いや意外な共通性に気付かせてくれる興味深くも面白い展覧会だった。これらエルミタージュ美術館所蔵品の珠玉作品(絵画や彫刻、工芸品も含め)を通し、エルミタージュの懐の深さと広さを見せてくれたとも言えよう。 

さて、やはりどうしても私的興味が絵画に向かうので、感想も絵画中心になってしまうので悪しからず

ということで、まずは「聖母子像」から。同じルネサンスの聖母子像でも、北(ドイツ)と南(イタリア)の違いと言うことだろうか? 

(左)ルーカス・クラーナハ(父)(1472-1553)《林檎の木の下の聖母子》(1527-30年頃)

伝統的構図のクラーナハらしい聖母子像で、聖母の豊かな長髪が妖艶だ。幼子イエスは左手に林檎(アダムとエヴァの原罪)、右手にパン(最期の晩餐)を持っている。やはり背景がドナウ派らしく樹木の濃緑色が印象的だ。

(右)ロレンツォ・ロット(1480-1556/57)《恵みの聖母》(1542年)

聖母と幼子が眼を合わせるところなど、やはり人間味あふれるイタリア的絵画(ヴェネツィア派)だなぁと思う。聖母の手の表現にレカナーティの《受胎告知》びっくりマリアさまのその後を見たような気がした。聖母子の背後には3人の天使が見えるが、信仰・希望・愛を表しているようだ。

ということで、ご参考までにレカナーティで観たびっくりマリアさまを紹介したい。そりゃぁ、突然、逞しい腕の天使ガブリエルに「おめでとう、 恵まれた方。」と言われたら驚くよね

ロレンツォ・ロット《受胎告知》(1528年)レカナーティ市立美術館

さて、次のペア作品は風俗画と宗教画の「食卓」が共通項だが、同じ南のスペイン絵画とイタリア絵画が並ぶ。ここでヴェラスケスが登場するなんて!! 両作品にカラヴァッジョの影響が見えるのが嬉しい♪♪

 (左)ディエゴ・ベラスケス(1599-1660)《朝食》(1617年頃)(表記は「ヴェラスケス」なのだろうけど大高先生の本は「ベラスケス」だった)

ベラスケスのセビーリャ時代初期、カラヴァッジョの影響を濃く宿す(まるで《エマオの晩餐》みたい!)ボデゴン作品の一つだと思う。世代の違う3人(老人・少年・青年)が楽しむ食卓はさすがの描写力で、人物にも静物にも真っ直ぐ向き合う画家の眼差しを感じる。興味深いのは左の老人の額皺が将にカラヴァッジョ的だし、更に驚くのは真ん中のカラフェを持つ少年が初期のアンニバレ・カラッチを彷彿させることだ。で、面白かったのは少年の背後の壁に老人の帽子と付け襟が掛けられていることで、当時の襟が取り外し可能だったことに気付いてしまった。

ご参考までに、アンニバレ・カラッチとその初期作品 を紹介したい。というのは、まさに襟の形からしてベラスケス作品の付け襟と同じように見えるのだ。

アンニバレ・カラッチ(1560~1609)《自画像》(1590年-1600頃年)ウフィッツィ美術館

 

アンニバレ・カラッチ《飲む少年》(チューリッヒ・Galerie Nathan)と《豆を食べる人》(1583-85年)コロンナ美術館 

(右)↓ヤコポ・キメンティ(ダ・エンポリ)(1551-1640)《エマオの晩餐》

ヤコポ・キメンティはトスカーナの画家で通称ヤコポ・ダ・エンポリとも呼ばれる。マニエリスム寄りの画家だったが、時々見られる明暗表現からカラヴァッジョの影響が語られるようだ。この《エマオの晩餐》もブレラ美術館《エマオの晩餐》の影響が強く感じられるカラヴァッジェスキ風である。会場の解説にはベラスケス作品の右の青年の服とキメンティ作品の右の使徒の服(色・デザイン)が同じと書いてあったが、よく見ると確かに似てはいるが、付け襟が違うように見えるのだけど

ということで、この展覧会には他にも興味深い作品ペアが多々あり、続きを書きたいと思っている。