NHK-BS世界のドキュメンタリー「疑惑のカラヴァッジョ」を見逃がした方もいらっしゃるようで、取りあえず番組内容をご紹介したいと思うのだが、細かな部分は端折ったりしているので(誤記もあるかも)、「概要」と言うことでお許しあれ。
2014年、トゥールーズ(フランス)の民家の屋根裏から1枚の絵が見つかった。所有者(匿名)からの相談で代理人となったのはマルク・ラバルブ(画商)で、鑑定のためパリへその作品《ホロフェルネスの首を斬るユディット》を送った。
初め、700万から1000万円と値踏みされていたが、美術史家で画商のエリック・テュルカンら専門家たちの鑑定により、やはりカラヴァッジョ作品ではないか?ということになった。
テュルカンはナポリのルイ・フィンソンによる模作作品の存在から、行方不明になっていたカラヴァッジョ真作と確信する。フィンソンは1607年にカラヴァッジョ作品を所有していたことが当時の記録に記されている。
絵の真贋で値は変わる。テュルカンは140億円の値を算定した。
トゥールーズ作品はフランス文化省により30ケ月の間(約2年)、国内留め置きにされることになる。その間、ルーヴル美術館で在仏カラヴァッジョ作品を一堂に会し、非公開で新発見作品との比較検討会が開かれた。ルーヴルの《聖母の死》《アロフ・ド・ヴィニャクールの肖像》《女占い師》、ルーアンの《円柱のキリスト》の前にトゥールーズ作品は置かれた。
ステファン・ロワール(ルーヴル美術館学芸員)は言う。「ルーヴル作品は全て来歴がはっきりしている。しかし、トゥールーズ作品の出自は謎だ。」
画商テュルカンは専門家を集め鑑定し、2年かけて本物と断定する。しかし、美術の専門家の意見はそれぞれ違う。本物と鑑定されるには通常15年かかると言う。フランスとイタリアの専門家たちは疑問を呈し、イギリスとアメリカの専門家たちは本物だと言う。
イタリアのジャンニ・パピ(フィレンツェ大学)は言う。「全体的にカラヴァッジョの特徴である力強さや躍動感が見られない。その他にもグロテスクに感じられるところがある。」と。
英国のジョン・ガッシュ(アバディーン大学)は言う。「画家が無意識に描く細部がカラヴァッジョと同じだ。例えば《円柱のキリスト》の眼の白いハイライト、布のほつれ。下帯のハイライトの白と陰影のグレーはベッドシーツと同じだ。」と。
さて、フランス文化省からの特別許可を得て、30ケ月のフランス国内留め置きが解除された2016年、画商テュルカンは作品をミラノのブレラ美術館に送る。館長のジェームズ・ブラッドバーン(テュルカンの友人?)はナポリのルイ・フィンソン作品と並べた展覧会を開催するが、イタリアではブーイングの嵐となる。ブレラの主任学芸員が抗議の辞職をするほどで、カラヴァッジョ作品だと認めた者は誰もいなかった。
バルベリーニ古典美術館の同主題作品と比較すると、侍女のアブラの位置が違う。バルベリーニ作品のユディットはいやいやながら首を斬る表情だが、トゥールーズ作品は挑戦的な眼差しを見せる。ユディットのドロップ型真珠のイヤリングは一致するのだが。
ということで、番組ではトゥールズ作品のオークションに向けての動きや、他の専門家の見解なども色々あるのだが、長くなりそうなので次回へと続く。
今回の概要と重なる部分も多いが、2019年のオークション直前の「美術手帖」記事も扱っているので、下記リンクをご参照あれ。
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/19887
ということで、続く…。