花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

NHK-BSドキュメンタリー「疑惑のカラヴァッジョ」の番組概要(3)

2020-05-27 00:25:17 | テレビ

トールーズ作品を売る方法は2つだ。1つは危険も派手さも無いプライベートセール。購入希望者と売り手が交渉し、合意した価格で売却する。もう1つは賭け事でもあるオークションへの出品。安値の可能性はあるが、入札が過熱すれば巨利となる。テュルカンのシナリオ通り、所有者は出品に同意した。

テュルカンは言う。「当社が受け取る手数料は公表する。保証料込みで売却価値の5%だ。もちろんこれほどの価格の競売は私たちも初めてだ。」

オークションへの準備が始まる。徹底的に作品のクリーニングをする、老女の皺も。彼は100%カラヴァッジョ作品として出品予定だ。威信をかけた大胆な行動は最高価格を引き出す作戦でもある。

フランス政府の「門外不出30ケ月の保管期間」に、ルーヴル美術館はカラヴァッジョ作品だと言明することは無かった。絵の行方はオークションで決まることとなった。テュルカンは外国勢に期待するが、大作の取引を仕切るのは初めてだ。極めてリスクの高いギャンブルだ。

ところが、この後、事態はさらに複雑に…。

最初のお披露目会場はロンドンのギャラリーで、記者会見は各国から多数のメディアが集まり盛況だった。6月に競売人ラバルブが用意するトゥールーズの会場でオークションすることが発表された。世界的なオークション会社が主催すると誰もが考えていたのだが…。これも大きな賭けだ。

入札は3000万ユーロから1億ユーロ超えか? しかし、真作かどうかの疑問は残っている。なのに、この高値はどうだろう? テュルカンは言う。「競売ですから価格は市場が決める。本物と信じる人は入札し、そうでない人は参加しない。」

ロンドン記者会見は成功だったが、その後はパッとしなかった。テュルカンは競売への不安を抱き始める。1週間の展示期間中に、客はわずかだった。彼は作戦を見直す。好意的意見を集めたカタログを作り、巻き返しのためカタログを手に、次はニューヨークへ向かう。輸送には140億円の保険をかけた。

NYの展示会場はMET(メトロポリタン美術館)近くの名門アダム・ウィリアムズのギャラリーだ。アダム・ウィリアムズは言う。「全米の美術館・コレクターから問い合わせが来ている。」

METは2点のカラヴァッジョ作品(《聖ペテロの否認》・《合奏》)を所蔵しているが、ユディットほどインパクトは無い。

(※花耀亭註:《リュート奏者》は寄託なのか??《聖家族》は所有者に戻されたのか??)

連日、MET学芸員が見学に訪問する。テュルカンは言う。「絵を観ると皆驚嘆する。事態は好転していると思う。」

ところが、世界最高額で落札された《サルバトール・ムンディ》の真筆を疑う論文が発表され、計画が狂う。同様に真作に疑いのある《ユディット》にとってタイミングは最悪だ。美術館は高リスクを冒せない。METとなれば尚更だ。結局、NY滞在中に購入を希望する美術館は現れなかった。

緊張に包まれるトゥールでは競売人のラバルブがオークションの準備に余念がない。ラバルブは「ロシア・中国・サウジ・UAEから購入希望者が来る予定だ」と言う。

しかし、セレモニーを準備していた午後6時。オークションを48時間後に控えていた時、予想外なことが起こる。

オークション中止!! 何が起こったのか? オークション4日前に購入者が決まったと?? 

テュルカンは言う。「興味を示す者は大勢いても、希望者は1人だけだった。」 プライベート・セールが成立し。購買者も売却価格も明らかにされない。

テュルカンは言う。「購入希望者は1人しかいなかった。オークションが成立するには競い合う2人の客が必要だ。最も重要なのは落札者ではなく、落札者と最後まで競り合って値を釣り上げてくれる人だ。購入を強く希望された人がいたので、そのオファーを受け入れた方が良いと判断した。ポーカーも辞め時がある。競売成功の条件が揃わなかった。」

彼らが辛くも回避したのは、他に入札希望者が現れず、最低売却価格で落札される事態である。絵の価値が失墜するからだ。土壇場のプライベートセールに変更し、購入者の面目と絵の価値を保った。

翌日、謎の購入者の名前が流出する。アメリカの大富豪トムリンソン・ヒルが、支援するMETのために購入したと言う。クリスチャンセンが舞台裏でうまく立ち回り、絵を手に入れたと推察される。その価格は決して明かされない。鑑定価格の1億2000万ユーロで売却されたのかも不明だ。

ただ、価格は莫大だと世間に信じ込ませれば、双方が利益を得るのは確かだ。METに展示されれば誰も真偽を問題にしなくなる。異論を唱える人には驚きの展開だが、ラバルブとテュルカンにとっては完全なる勝利だ。2人の名は名画を発見したとしてアメリカ史に残るかもしれない。

物語は常にパーティーで終わるのが常だが、密室で絵の売却が行われた後味の悪さが漂っていた。《ユディット》は謎めいたまま舞台を去った。誰も彼女の秘密を明かすことのないまま。

(ということで、この概要シリーズは終了です