サンドロ・ボッティチェッリ《Man of Sorrows(悲しみの人)》(1500年頃)がサザビーズのオークションに出るようだ。
https://www.sothebys.com/en/articles/sandro-botticellis-the-man-of-sorrows
今年2月の《ラウンドエルを持つ青年の肖像》(1480年)に引き続きオークションに出るなんてちょっと驚きかも。
ちなみに、この《Man of Sorrows(悲しみの人)》を見て、パラッツォ・ビアンコのメムリンク《(Cristo benedicente)祝福のキリスト》を想起してしまった。
ハンス・メムリンク《祝福のキリスト(Cristo benedicente)》(1485年)パラッツォ・ビアンコ
wikipediaの画像ファイルでは題名英訳が《Man of Sorrows》になっている
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hans_Memling_Cristo_benedicente.jpg
メムリンク作品は当時フィレンツェにあって、ドメニコ・ギルランダイオも模写している。
ドメニコ・ギルランダイオ《The Man of Sorrows(悲しみの人)》(1490年頃)フィラデルフィア美術館
https://www.philamuseum.org/collection/object/101837
このメムリンク《悲しみの人》の対になる《悲しみの聖母》もペルジーノ(&工房)が模写している。
※ご参考:https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/a24f118c41fcacf2b0b518cc1e68eb95
当然 、ボッティチェッリも観ているはずで、私的にはその影響の答えがこの《Man of Sorrows(悲しみの人》だと思うのだが、美術ど素人の暴走だろうか?
ともあれ、できればどこかの美術館が落札して欲しい。個人コレクターに落札されると私たちは観る機会がなくなってしまうから(涙)。
私がこの絵を初めて知ったのは、引用サイトの文章の末尾にも書かれている2009~2010年フランクフルト・シュテーデルで開催されたBOTTEICELLI LIKENESS・MYTH・DEVOTIONの図録です(本を持っているだけで、展覧会には行っていません)。そこにはChrist as the Man of Sorrows with a Halo of Angelsという出品作名で解説があり、同様のボッティチェリ工房作としてデトロイトの絵(Redeemer救世主、但し天使の輪舞はなし)と2点が掲載されています。Man of Sorrowsの解説には、ライトボーンの1978年のカタログレゾネで触れている他には言及されていないこと、1963年にオークションにかけられ、その時Federico Zeriは1500年頃のボッティチェリ作品としたことが書かれています。
(現在のZeriのリスト中のこの作品については下記URL)
http://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15124/Filipepi%20Alessandro%2C%20Cristo%20in%20piet%C3%A0%20e%20simboli%20della%20Passione
http://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/110150/Filipepi%20Alessandro%2C%20Ecce%20Homo
(itをjpに変えていますので、itに戻してご覧ください)
ライトボーンのカタログレゾネを見ると、3点のRedeemer(デトロイト、ベルガモ、フォッグ)が出ていますが、このMan of Sorrowsについては写真付きの作品項目として取り上げていなくて、フォッグ美術館のRedeemerの解説文中に「11人の天使で囲まれた救世主キリストの絵が1963年にサザビーズで売られた」ことが書かれているだけです。ライトボーンのカタログレゾネは現在でも最も役に立つボッティチェリ作品カタログであり、ここに独立項目として取り上げられていないということは、1978年時点で著者はボッティチェリ作品とは見なしていなかった、ということになります。なお、他のカタログ(Nicoletta Pons及びRizzoli集英社)でもRedeemerの2点(ベルガモ、フォッグ)だけで、このMan of Sorrowsの扱いはありません。
シュテーデルの図録に出ているボッティチェリ工房作のデトロイトの絵には、上記本文で取り上げられているメムリンクの絵が参考図として掲載され、さらに天使が描かれているMan of Sorrowsの絵の解説では参考図として、ハンブルグにあるJan Mostaertの絵とMaster E.S.の版画が同様の天使を描いているという意味で初期ネーデルランド絵画からの影響が述べられています(図は下記URL)。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mostaert_Hamburg_Ecce_homo.jpg
https://arthistoryunf.wordpress.com/2013/12/03/master-e-s-man-of-sorrows-with-four-angels-single-sheet-engraving-c-1450-1467-boston-ma-museum-of-fine-arts-34-602-2/
ボッティチェリの作品で天使が輪舞する絵というと、サン・マルコ由来の聖母戴冠とロンドンNGの神秘の降誕が有名ですが、このMan of Sorrowsのグリザイユの天使たちも以前から気になっていました。今回の件で、この絵もサヴォナローラに関係し、図像としては北方絵画に由来しているということを今回のことで初めて認識しました。なお、私の判断としては、作品の出来は晩年の工房作として「並み」レベルの出来かと思います。
ご紹介いただいたデトロイトやベルガモ作品を見ると、やはりメムリンクの影響を強く感じてしまいます。これらの作品の延長線上に今回のオークション作品が描かれたのだろうなぁと想像してしまいました。
多分、むろさんさんのおっしゃるように工房作品なのでしょうが、やはり構想はボッティチェッリによるものでしょうから、北方絵画・版画からの影響の大きさを改めて感じますね。天使も確かに北方的ですし。
実は、写真で見るオークション作品に漂う悲しみが、なんだかサボナローラ以後のボッティチェッリの心情を映しているように思えました。もちろん、出来はともかく、ですが。
>工房作として「並み」レベル
確かに...と思ってしまいましたです(^^;