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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

毎日新聞で、ペリー荻野さんと「芸能」対談

2016年01月08日 | メディアでのコメント・論評



特集ワイド 
大予測2016 
<芸能>


「真田丸」三谷氏の執念 ペリー氏
「紅白」1年かけ再考を 碓井氏


今年はどんなテレビドラマや音楽が話題になるのだろうか。テレビウオッチャーでコラムニストのペリー荻野さん(53)、メディア論が専門の上智大教授、碓井広義さん(60)が語り合った。【構成・江畑佳明、写真・内藤絵美】

−−まずドラマについて。昨秋から続くNHK連続テレビ小説「あさが来た」は、平均視聴率20%台を保ち、好調です。その理由は何でしょうか?

ペリー氏 時代設定が幕末から明治で「ちょんまげでスタートした初めての朝ドラ」と私は呼んでいます。時代劇好きの私は「やっと来た!」と歓喜しています。

碓井氏 ハハハハハ。

ペリー氏 制作側が朝ドラの本流である「女性の一代記もの」をしっかり研究しているのが大きい。朝ドラは「女性の一代記もの」と「自分探しもの」があります。1990年代以降の視聴率低迷期は「自分探し」が多かったのですが、本流は「おしん」(83〜84年)に代表されるように激動の時代を生き抜く「女の一代記」。最近では「カーネーション」(2011〜12年)や「花子とアン」(14年)がありました。

碓井氏 主人公のモデルは豪商・三井家のお嬢さんで、実業家として日本女子大学設立に尽力した広岡浅子。物語の軸がしっかりしているから、安心して見ていられる。それと時代設定が幕末から明治という大激動期である点が大きい。現代は明日が見えにくい閉塞(へいそく)感が漂っていますが、現代と比べものにならないほどのパラダイムシフト(社会構造の大転換)があった時代を、ひとりの女性がどう生き抜いたか、視聴者は参考にしたいのかもしれません。

ペリー氏 舞台が関西というのもいい。あの時代を新鮮な角度から見られますから。

碓井氏 同感です。幕末維新ものは、江戸を舞台にすると武家中心の話になってしまう。武家だとしきたりに縛られて面白くありませんが、「あさ」は大阪の商人たちが自由で伸び伸び活躍します。

ペリー氏 また、細かいところでは「あまちゃん」(13年)で主人公の「じぇじぇじぇ」という決めぜりふがあったように、「あさ」でも「びっくりぽんや!」があって、これもヒットの「鉄板要素」。まさに「あさ(朝)が来た!」という感じです。

−−春からの朝ドラは「とと姉ちゃん」です。

ペリー氏 生活総合誌「暮(くら)しの手帖(てちょう)」を創刊した大橋鎮子をモデルに描かれます。これも一代記もの。期待したいですね。

−−民放では「下町ロケット」(TBS系)が好評でした。

ペリー氏 「このドラマは応援せねばいかん」という気持ちになりましたよね。

碓井氏 さすがと思うのは「ドラマの三要素」すべてをうまく詰め込んでいたことです。物語の面白さ、キャスティング(配役)がよかった。演出でも、登場人物のアップから、3000人の社員の整列という壮大なシーンまで画面にすきがなかった。「きちんとドラマをつくれば、視聴者は見てくれる」と証明してくれました。今年も手の込んだドラマを見たい。

−−今年ブレークしそうな若手の俳優はいますか?

ペリー氏 男性では菅田(すだ)将暉さん。昨年5〜8月放映の「ちゃんぽん食べたか」(NHK)ではさだまさしさんの青年期をうまく演じていて好感が持てました。映画「ピンクとグレー」が9日に公開されますが、今後も出演作が続きます。

碓井氏 女性では昨年のポカリスエットのCMに出演した中条あやみさん。うかがい知れない雰囲気があって、期待大です。2月公開予定の映画「ライチ☆光クラブ」ではヒロイン役で登場します。

−−大河ドラマは三谷幸喜さん脚本の「真田丸」です。

ペリー氏 試写会で初回を見たのですが、三谷さんの執念を感じました。三谷さんが大河を手がけるのは「新選組!」(04年)以来。数年前「今度大河に関われるなら真田をやりたい」とおっしゃっていたんです。

碓井氏 へえ。僕は信州の出身なので、非常に関心が高い。が、やはり池波正太郎さん原作のドラマ「真田太平記」(NHK、85〜86年)のイメージが刷り込まれています。比べる必要はないとわかっているのですが……。三谷さん的なギャグより、男たちの骨太なドラマを見せてほしい。

ペリー氏 試写会を見た私のイチ押しは、昌幸(幸村の父)役の草刈正雄さん! 「真田太平記」で幸村を熱演していました。このドラマで昌幸役だった丹波哲郎さんが乗り移ったみたい。視線をクールにすーっと動かす所作とか。もう、感激。

碓井氏 それは楽しみです!

−−音楽界はどうでしょう。昨年末の紅白歌合戦は視聴率が低迷しましたが。

碓井氏 かつては「1年を振り返る音楽番組」でしたが、昨年は「ディズニーから番組宣伝まで何でもありの音楽バラエティー番組」になってしまった。音楽番組として何をしたいのかわからない。今年1年かけて紅白のありかたを考え直してほしい。以前のような午後9時スタートの2時間45分番組で十分な気もします。

−−懐メロが目立ちました。今年ヒットする兆しはありましたか。

ペリー氏 目玉が乏しくサプライズも少なかったのは残念でしたが、AKB48は既に国民的歌手になった感じがしました。E−girls、初出場の乃木坂46もそうですが、数多くの若い女性たちが歌って踊る路線は今年も続くのでしょう。お母さん的視点ですが、好感が持てますから。

碓井氏 アニメ番組「ラブライブ!」の声優で結成したμ’s(ミューズ)も女性グループですが、最近の音楽界ではアニメソングの存在が大きいと改めて感じました。

ペリー氏 演歌からは2人が初出場しました。三山ひろしさんは、多くの苦労を乗り越えているので歌に味がありました。山内恵介さんも新鮮でした。今年は演歌の盛り上がりに期待したいですね。

−−バラエティー番組の勢いは変わりませんか。

ペリー氏 昨年は「マツコ(・デラックス)時代」と言ってもいいくらいでした。

碓井氏 マツコさんには知性と品性を感じるし、確かに面白い。視聴者にとっては「この番組を見て損はしない」という最低保証があります。でも制作側がタレントの個性にばかり頼る姿勢はいかがなものでしょうか。

ペリー氏 先日、浅草の劇場を中心に活動している芸人さんたちを紹介する番組を見ました。普段テレビでは見ない方々ですけど、とても面白くて。今年は、こういう人たちが出てくるバラエティー番組がもっとあってもいい。

碓井氏 全く同感ですね。今年はタレント力だけではなく、制作側の番組構成力がより問われると思います。

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ぺりー・おぎの
 1962年愛知県生まれ。時代劇の主題歌を集めたCD「ちょんまげ天国」をプロデュースするなど、時代劇をこよなく愛す。著書に「ちょんまげだけが人生さ」「バトル式歴史偉人伝」など。
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うすい・ひろよし
 1955年長野県生まれ。慶応大卒。テレビ制作会社のプロデューサー、東京工科大教授などを経て現職。新聞コラムでの辛口論評で知られる。著書に「テレビの教科書」など。


(毎日新聞 2016.01.06)


撮影:内藤絵美(毎日新聞)

加島祥造さんに、合掌

2016年01月08日 | 本・新聞・雑誌・活字



1月6日に、加島祥造さんが亡くなりました。

加島さんの本は何冊も読んできたし、週刊新潮の書評で何度も取り上げさせていただきました。

どの本も、読むと、少しだけ気持ちが軽くなったものです。

92歳の大往生かもしれませんが、いなくなってしまったこと、新しい本が読めなくなったことは寂しいです。

感謝をこめて、合掌。


以下は、書いた書評のいくつかと、このブログに書いた文章です。

加島祥造 『私のタオ~優しさへの道』 
筑摩書房 1680円

詩人で翻訳家の著者が老子に関する最初の本を出してから17年。“老子をめぐる思索の旅”は86歳の今も続いている。本書のテーマは『老子』が示す「優しさ」「柔らかさ」、さらに「弱さ」だ。閉塞社会、不安の時代を生きるためのヒントが見つかるかもしれない。
(2009.12.10発行)


加島祥造 『ひとり』 
淡交社 1680円

雄大な中央アルプスを背に田園風景が広がる信州・伊那谷。著者がこの地に移り住み、独居を始めて四半世紀が過ぎた。89歳になった現在、「老子」を通じての思索はさらに深まり、その言葉は透明感を増している。「求めない、受けいれる」生き方がここにある。
(2012.05.11発行)


加島祥造 『アー・ユー・フリー? 自分を自由にする100の話』 
小学館 1728円

現在91歳になる著者が、信州・伊那谷に移り住んでからの25年間に行った講演のセレクト集だ。「よりよく生きるということは、自分に正直に生きることだ」といった言葉を含む100話が並ぶ。全てに共通しているのは「自由」への思い。老子をひも解きたくなる。
(2014.2.27発行)


加島祥造さんの『小さき花』

『タオ 老子』などで知られる加島祥造さん。最新刊『小さき花』(小学館)が出た。

見開きページの、右に言葉、左に書。文と画が加島さん、そして書は金澤翔子さんの作品だ。

米寿[88歳]の年を迎えた“伊那谷の老子”は、ますます澄み切っていく。この本の中の言葉は、シンプルだからこそ、強い。書もまた、眺めていて、飽きることがない。

楽シサハ
身ノ
自由ナル
トコロニアル

いま在るがままでいればいい
いちばん好きなことを
するがいい
いま要るものだけ
持つがいい
――加島祥造『小さき花』




(2010年12月15日)


詩人・加島祥造のドキュメンタリーと「巨匠」

いい番組を見た。

NHK ETV特集
「ひとりだ でも淋(さび)しくはない~詩人・加島祥造90歳~」


信州・伊那谷の自然の中で暮らす詩人・加島祥造さん(90歳)の言葉が、この時代をどう生きるか悩める人々から注目されている。ベストセラーとなった詩集「求めない」、「受いれる」の中で加島は言う。会社や家庭の中で求めすぎる心を転換してバランスをとり、ありのままの自分を受け入れるとずいぶん楽になると。

もともと加島さんは横浜国大の英文学教授だった。ノーベル文学賞作家ウィリアム・フォークナーやアガサ・クリスティの数々の翻訳で名声も獲得。しかし、なぜか心は満たされず、逆に息苦しさを感じて生きていた。

そんなとき、野山で自由に遊び回っていた幼少期の頃の感覚を思い出せという内なる声が聞こえた。60歳になった加島は、我慢の限界に達し、社会から飛び出す。そして、たどり着いたのが伊那谷だった。その大自然に触れるうち、自分の中に可能性を秘めた赤ちゃんのようなもう一人の自分、いわば「はじめの自分」がよみがえった感覚を感じたという。

その後、伊那谷で暮らすうちに、なぜか詩が湧いて出てき、また、絵も描けるように変わっていった加島。精神のバランスも徐々に取れるようになっていった。

そんな加島さんの元を訪ねるようになったのが、政治学者の姜尚中(63歳)。順風満帆に見える姜だが、実は、4年前に長男を26歳の若さで亡くした。それがきっかけとなり、60歳を過ぎて、このままの人生を送っていいのか、何が自分にとっての幸せなのか考えるようになったという。そんなときに偶然出会ったのが加島さんだった。それ以来、たまに伊那谷を訪れて、加島とのやりとりを繰り返している。

わがままと言われようと、ただ命に忠実に向き合ってきた加島。番組では人生の晩年をどう生きるか、今もあがき続ける90歳の日々を見つめる。


加島さんの本はすいぶん読んできた。とはいえ、共感しながらも、簡単にその境地に近づけるはずもない。

番組で見る最近の加島さんは、ますます遥かな道を歩んでいる、という印象だ。亡くした”大切な女性”の話も含め、「ああ、加島さんらしい90歳だなあ」と思いながら、なんだか嬉しかった。

見終わって、いい気分でいたので、エンドロールをぼんやり眺めていた。NHK福岡の制作だったが、ディレクターの名前は見逃してしまった。けれど、「編集 吉岡雅春」という文字は目に入ってきた。

吉岡さんは番組編集者だ。知る人ぞ知る、天才的編集者。私もお世話になった、テレビ界の大先輩だ。今は、主にNHKスペシャルで、その名を見ることが出来る。

30年前、新人のアシスタント・ディレクターとして、吉岡さんに初めて会った。その際、先輩のディレクターから、吉岡さんのニックネームが「巨匠」であることを教えられた。出会った時から、すでに巨匠だったわけだ。そして私がディレクターになってからも、何度もお世話になった。

取材が不十分な時、その指摘は厳しく、私はすごすごと「追撮」に出かけた。編集作業に少し疲れたり、私が煮詰まったりすると、吉岡さんはキャッチボールをしようと言う。黙ってボールをやりとりしながら、こちらも打開策を考えるのだ。

巨匠は、今でも、ディレクターとキャッチボールをしているのだろうか。

(2013年10月20日)