碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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厨房失格者が考える、「食」と「健康」の秋

2016年09月13日 | 本・新聞・雑誌・活字



本のサイト「シミルボン」に、以下のコラムを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/columns/1674267


厨房失格者が考える、「食」と「健康」の秋

9月になって、残暑ではあるけれど、風が変わってきた。いつの間にか秋?最近食べものが美味しいのも、そのせいか、と。

食べることは好きだが、恥ずかしながら、料理ができない。このジャンルに関してほぼ無能である。これまでまったくと言っていいほど、やってこなかったからだ。

大学1年で上京し、一人暮らしを始めた直後、少しだけトライしたが、すぐにやめた。才能がない、不向きだと思ったのと、ヘンな話だが、時間が惜しかったのだ。正直言って、料理をする時間も、本を読む時間に当てたかった。そんな18歳だった。

以来、10年後に結婚するまで、朝(トーストと牛乳)以外はオール外食だった。6年間の単身赴任の時でさえ、私の部屋には炊飯器もなかった。

まあ、学生時代もその後も、安くてうまい食堂を見つける能力だけはあったので、困らなかったのだ。

テレビプロデューサーとしての仕事の中で、何人かのプロの料理人にもお目にかかった。その中には、亡くなってしまった「辻留」の辻嘉一さんもいる。

『辻留 ご馳走ばなし』(中公文庫)などの著作を読み、ご本人のお話をうかがい、さらに目の前でその技を見ていると、料理というものが“尋常でないこと”だと分かる。

で、ますます、自分で包丁を持つことをしなくていい、と思うようになった。

だから、プロでもアマでも、料理ができる男、料理をする男には、素直に尊敬の念をもつ。ひたすら、「すごい」と思う。

『笑う食卓』(阪急コミュニケーションズ)の著者である立石敏雄さんも、(お会いしたことはないが)もちろん、すごい人である。

1947年生まれの立石さんは、『平凡パンチ』や『BRUTUS』などの雑誌に関わってきた元編集者であり、ライターだ。この本には、雑誌『Pen』に連載された人気コラムの8年分が収められている。

軽妙なその文章は、料理や食をテーマとしながら、独自のライフスタイルも生き生きと描き出している。

厚さ4センチ、約6百頁の大部であるが、グルメ御用達の有名店、普通は手の届かない高級食材、海山の珍味などが、ほとんど登場しない点に特色がある。これが嬉しい。

語られるのは煮物の味付けの方程式であり、海苔弁におけるワサビの功績であり、ゴーヤーの掻き揚げによるストレス解消である。厨房失格者である私でさえ、一度試してみたくなるような絶好のネタが並ぶ。

しかし、何より羨ましいのは、某女性誌編集長だった夫人を送り出した後の過ごし方だ。

晩飯当番と称する料理と洗濯は担当するものの、ほぼ自由時間となる。夫人が出張でいなければ、極端な粗食を一日二食。あとは長い睡眠の後、刃物を研いだり山の釣堀に行ったり。座右の銘が「なんとなく」だというのもうなずける贅沢な半隠居生活だ。

食は人をシアワセにしてくれる。そのためには“立石流”探究心と、「うまけりゃいいや」の大らかさが必要なのだと納得した。


その一方で、ようやく減量作戦を開始した。

高い血圧も、血糖値も、体重を減らすことで、問題はかなり解決すると医師から言われながら、「まあ、そのうちに」と先延ばししていた。

しかし、今回は医師および栄養士さんの指導も受けたことだし、「ひとつ、本気でやってみるか」ということになったのだ。

私の食生活を調べた栄養士さんからの厳命は、意外と簡単(?)なことで、間食としての「甘いもの」をやめること。つまり、”お見立て”によれば、3度の食事自体は特に食べすぎではなく、この間食で、余分なカロリーをせっせと摂取していたらしいのだ。

食品のカロリー表示の本を見せられつつ、説明を聞いたが、おやつにと普通に食べていた菓子パンやチョコレート、アイスクリームなどの、カロリーの高いことにびっくり。いや、単なる無知でした。

無知を補うべく手に取ったのが、岡田正彦さんの『人はなぜ太るのか~肥満を科学する』(岩波新書)

メタボリック症候群の流行で、肥満はすっかり犯罪扱いだ。もちろん私も肥満がいいことだとは思っていない。できれば何とかしたいと思う。だが、できない。

この本は、そんな軟弱者への福音の書かもしれない。肥満の仕組み、なぜ身体に悪いのか、そして健康的なやせ方も分かりやすく教えてくれる。

最大の利点は、肥満の怖さが科学的に理解できること。最先端の研究データによれば、肥満は緩慢な自殺どころではない。自分との無理心中である。怖いのだ。

長年、病院で予防医学の外来を担当してきた岡田先生の、愛ある厳しいアドバイスに耳を傾けた。

今回、私が行う<医師の指導による減量作戦>は、1年がかりの予定。目標は1年で10キロだそうだ。「ひえ~!」である。

甘いものを「やめる」のと、できるだけ「歩く」こと。それだけで、どこまで減るのか、まあ、やってみます。

(シミルボン 2016.09.07)

遥か南の島 2016 ピンクパレス(ロイヤル ハワイアン ホテル)

2016年09月13日 | 遥か南の島 2015~16/18

サッポロCMで「詩」を語る、作詞家・松本隆さん

2016年09月13日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。今回は、サッポロ黒ラベル「大人エレベーター」の松本隆さんについて書きました。

サッポロ黒ラベル 「大人EV 66歳 詩とは」編

森の緑を背に
「青春」「詩」語る

妻夫木聡さんが魅力的な大人たちに会いにゆく、サッポロ黒ラベルの「大人エレベーター」シリーズ。作詞家・松本隆さん(66)の登場に、思わず拍手だ。

1971年秋に発表された、はっぴいえんど(細野晴臣、松本隆、大瀧詠一、鈴木茂)のセカンドアルバム「風街ろまん」が忘れられない。

当時4人が挑んだのは、それまでにない“日本語によるロック”の構築だった。松本さんの歌詞には、高度経済成長が消し去った東京の原風景が、冷めたノスタルジアと共に表象されていた。

80年代に入ると、松本さんは作詞家として松田聖子に「風立ちぬ」「赤いスイートピー」などを提供。大ヒットメーカーとなっていく。

緑の森を背にした松本さん。「生きること自体が喜びである時期が青春」と語り、「詩とは心の動きだと思う」と続ける。

ああ、確かに松本隆だ。流れゆく時代と併走しながら、普遍的な世界観を言葉で刻んできた大人の男がここにいる。     

(日経MJ「CM裏表」 2016.09.12)