碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

植草さんとコーシン先生

2017年01月18日 | 本・新聞・雑誌・活字



本のサイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。

https://shimirubon.jp/reviews/1677649


植草さんとコーシン先生

書庫のどこかにあるはずなのに、見つからなくて困っていた本を、古本屋さんで入手しました。

『植草甚一 ぼくたちの大好きなおじさん―J・J100th Anniversary Book』(晶文社)です。

嬉しかったのは、「植草さんの声が聞けるCD」という涙モノの付録も、ちゃんと付いていたこと。このCDには、75年~76年に行われたインタビュー3本が収録されていて、その中の一つが鍵谷幸信さんによるものでした。

当時、鍵谷さんはジャズファンの間ではよく知られたジャズ評論家でしたが、あの西脇順三郎の弟子であり、現代詩人でした。

また現代英米詩が専門の慶大教授でもあり、私たちが学生の頃は、日吉の教養課程で英語の授業も担当されていました。

幸信という名前は、本当は「ゆきのぶ」だと思うのですが、みんな「コーシン」と呼んでいました。「カギヤ・コーシン・センセー」と。

そして、鍵谷先生が英語の授業をやっている教室からは、大音量のジャズが聴こえてくるという伝説があり・・・・いや、実際そうでした。

それだけで、鍵谷先生の授業を受けたかった。

でも、必修科目だった英語は担当が決められていて、学生は選べなかったのだ。

一度、教室をのぞきに行ったら、本当にジャズのレコード(CDじゃない)をかけたりしていて、鍵谷先生は教壇の上でタバコをふかしながら授業をしていました。

いい時代だよねえ。

そのコーシン先生も、89年に亡くなっています。まだ58歳の若さでした。

植草さんと鍵谷先生には、2人で出した、植草甚一・鍵谷幸信:編『コルトレーンの世界』(白水社)という本もあります。

ちなみに、私の日吉時代には、まだ、この『コルトレーンの世界』は出版されていません。

日吉から三田に移って、今度は、ようやく植草甚一さんを知ることになります。

「A LIFE~愛しき人~」は、キムタクドラマの延長か、それとも新・木村拓哉ドラマか

2017年01月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



TBS日曜劇場「A LIFE~愛しき人~」の第1回が放送され、雑誌の取材を受けました。感想を、とのことでしたので、ざっと以下のような話をしました。

「スーパードクター」ではなく、「職人外科医」?

TBSのフレコミでは、いわゆる「スーパードクター」ではなく、「職人外科医」だそうですが、まあ、これは、「ドクターXとは違うので、比べたりしないでね」という予防線みたいなものだと思います。

「心臓血管と小児外科が専門の職人外科医」といわれても、あまりピンときませんが、第1回では、明らかに「海外仕込みの凄腕外科医」として登場してきました。

で、外科医として活躍するドラマなのだろうと、いわば、お手並み拝見ということで、“その時”を待ちました。

栄えある最初の患者さんは、かつての上司であり、かつての恋人(竹内結子)の父親でもある病院長(柄本明)。「ナンだ、ずいぶん内向きの話だなあ」という、肩すかし感もなんのその、同じ回の中で、柄本サンに2回も手術しちゃいます。

これもTBSのフレコミですが、「リアルな手術シーン」に力を入れたそうで、確かに、その形跡は見えました。

「見せ場」感に欠ける手術シーン

ただ、残念ながら、そのリアルが、あまり効果を発揮していません。沖田を演じる木村拓哉が、練習を重ねて臨んだとのことですが、手術シーン全体に、緊張感とか、緊迫感とかが希薄でした。3~4分のシーンなのに、どこか間延びしたというか、いたずらに長く感じられました。

また手術を終えても、「やったね!」という達成感とか、勝利感とか、爽快感とかが、ほとんどない。ドラマにおける「見せ場」が与えてくれる高揚感もありませんでした。

これはなぜだろうと考えてみたら、沖田が行った「手術のスゴさ」、もっと言えば「沖田のスゴさ」が、視聴者にはよく分からなかった。「どこかの国の王様の親戚の命を救った」とか言われても(笑)。

もちろん、沖田医師から、ひとしきり説明はありました。しかし、医学用語をただ並べるだけでは、聞いていても頭に描けないし、手術法みたいなものをテロップで文字表示されても、多くの視聴者にはピンときません。

そういう意味では、「ドクターX」は上手いですね。ストーリー展開でハードルの高さに目を向けさせるだけでなく、図解やCGなんかも挿入して、「なんだかスゴい」感を、ちゃんと伝えています。決して米倉涼子のお手柄だけではないのです。

ドラマは、シナリオと演出と役者の相乗効果です。視聴者は、医療ドラマに、まんまの医療的リアルとか、医学的正確さばかりを求めているわけではありません。「ドラマ的それらしさ」「ドラマ的リアル」があればいいのです。その上でエンターテインメントに仕立ててくれたら、十分楽しめる。

「A LIFE~愛しき人~」の手術シーンは、リアルチックなのかもしれませんが、ドラマチックではなかったのです。今後は、撮り方や構図といった映像面、そしてテンポのいい編集なども工夫してみるといいかと思います。

中年ラブストーリーなのか?

それから、今度はドラマ全体、もしくは物語全体についてですが、「木村拓哉―竹内結子―浅野忠信」による、10年越しの三角関係(笑)みたいなものを、どこまで描こうとするのか、気になります。

あまり、そちらの方向に流れると、「A LIFE(命)」を救う男の話というより、サブタイトルの「愛しき人」が強調された、半端な中年ラブストーリーになりそうで。

何しろ、“顔見世興行”としての第1回を見る限り、人間関係が結構ドロドロしている印象(笑)。まあ、そういうものを見たい人もいるでしょうが、これって、そうなんだっけ?

竹内結子、浅野忠信、松山ケンイチ、及川光博、木村文乃など、脇を固める役者は、いずれも主役級です。いい俳優たちです。だからこそ、単に主演の木村拓哉を引き立てるためにのみ、使われていかないことを願います。

この「A LIFE~愛しき人~」が、旧来の「キムタクドラマ」の延長にあるのか、それとも「新・木村拓哉ドラマ」の構築を目指すのか。第1回だけでは判断しかねますが、「やや微妙な内容と出来」であることは確かなのではないでしょうか。

もちろん、「裏を返す」という意味で、第2回も見る予定です。