碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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松重豊が五感を刺激する「孤独のグルメ」の共有する楽しみ

2019年12月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

松重豊が五感を刺激する

「孤独のグルメ」の共有する楽しみ


2012年に始まり、今回がシーズン8となる「孤独のグルメ」。主人公の井之頭五郎(松重豊)も、仕事で訪れた街で味わう「一人飯」という構成も不動のままだ。いわば不変という名のオアシスがここにある。

さらに、このドラマの名物である、五郎の「実況中継風モノローグ」も変わらない。いや、ますます絶好調だ。たとえば、御茶ノ水にある南インドカレーの店。定食のサントウシャミールスを前に「カレーの香りに黄色い魔女が住んでいる」。そして食べた瞬間、「見た目と味が頭の中ですれ違っている!」の名言だ。

また豪徳寺で食したのは、ぶりの照り焼き定食。ご飯を、脂が乗った「ぶりの皮」で包み、口に運ぶ。「いい時間だ。これが俺には必要なんだ」と納得し、同時に「定食のかけがえのなさを人は忘れがちだ」と自戒する。

先週は、台風前にロケが行われたと思われる、あの武蔵小杉だった。タワーマンションの足元にある、昔ながらの飲み屋街でジンギスカンの店を見つける。

羊の肩ロースであるチャックロールやもも肉などを、網焼きと鍋焼きで堪能する五郎。「羊たちの猛攻に胃袋がサンドバッグ状態」と、うれしい悲鳴だ。「欲望のままに羊をかっ食らう。俺はヒグマだ!」の雄たけびに笑ってしまう。

見る側も五郎の言葉と表情に五感を刺激され、一緒に味わっている。孤独ならぬ共有のグルメだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2019.12.18)