週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
「いまこそ魯迅」という著者の闘争継続宣言
佐高 信『いま、なぜ魯迅か』
集英社新書/880円
佐高信『いま、なぜ魯迅か』は、今年74歳になる著者の思想的自叙伝である。自身の「思想の源郷」というべき魯迅。その魯迅に影響を受け、そして著者に影響を与えてきた人々の「思想と行動」を振り返っていく。
いや、逆かもしれない。著者の血や肉となってきた彼らが、それぞれに魯迅と繋がっていることを再検証したのが本書だ。
登場するのは中野重治、久野収、竹内好、むのたけじなど。魯迅と重なるのは「批判と抵抗の哲学」であり、それは著者の拠って立つところでもある。
たとえば久野は、「(魯迅には)文学や言論の役目を深く信じ、(中略)ある段階へ行くと政治的影響力に転化する、という気魄がある」と語っている。
また、むのが書いた「行く先が明るいから行くのか。行く先が暗くて困難であるなら、行くのはよすのか。よしたらいいじゃないか」という厳しい言葉。まるで魯迅が憑依したようだ。
さらに本書では魯迅とニーチェの類似性にも注目する。「腐敗した秩序をも維持させてしまう通俗道徳に爆薬をしかけたこと」で共通していると著者。
確かに「およそ身振りを必要とする者は、贋物である……あらゆる絵画的人間を警戒せよ!」といったニーチェの箴言は魯迅を思わせる。同時に現在の日本社会をも連想させる普遍性がある。
書名の「いま、なぜ魯迅か」は、「いまこそ魯迅なのだ」の意味であり、「批判をし抜く人」としての闘争継続宣言だ。
(週刊新潮 2019.12.12号)