碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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<2019年12月の書評>

2019年12月30日 | 書評した本たち

 

 

<2019年12月の書評>

 

チャールズ・M・シュルツ、谷川俊太郎:訳

『完全版ピーナツ全集15』

河出書房新社 3080円

これは快挙だ。チャーリー・ブラウンとスヌーピーと仲間たちの日常を描く世界的人気漫画は、1984年に掲載紙が2000に達し、ギネスブックに認定された。その50年分が全25巻の大型版全集になったのだ。収録は初出順。もちろん谷川俊太郎の個人全訳である。(2019.10.30発行)

 

渡邉義浩『はじめての三国志』

ちくまプリマー新書

今、何度目かの「三国志」ブームだ。その中心にあるのはゲームだが、原典に興味を持つ人にとって本書は格好の入門書だ。一般的に劉備や諸葛亮(孔明)などが人気者だが、著者は時代を切り開いたという意味で魏の曹操に注目する。新たな「三国志」像の登場だ。(2019.11.10発行)

 

稲泉 連『宇宙から帰ってきた日本人』

文藝春秋 1815円

毛利衛や山崎直子など12人の日本人宇宙飛行士が語る。夜の明るさで二分される朝鮮半島に「国境」を見た秋山豊寛。船外活動で「底のない闇」を実感した星出彰彦。そして帰還時の「重力体験」に驚いた向井千秋。多様で個性的な言葉に満ちたインタビュー集だ。(2019.11.15発行)

 

赤坂憲雄『ナウシカ考~風の谷の黙示録

岩波書店 2420円

宮崎駿のマンガ版『風の谷のナウシカ』。それは「思想の書として読まれるべきテクスト」だと著者は言う。風の谷は「国家に抗する社会」であり、ナウシカは「母なるもの」の肯定と否定を背負う。宮崎をドストフスキーと並べて論じることにも挑戦した野心作だ。(2019.11.21発行)

 

西尾実ほか:編『岩波 国語辞典 第八版』

岩波書店 3300円

通称「いわこく」、10年ぶりの最新版だ。削除された古い語は200項目。「ダイバーシティ(多様性)」や「eスポーツ」など2200項目が加えられた。ただし「十分に定着」と判断できる新語に絞っており、その慎重な姿勢が好ましい。新しい年を新しい辞書で。(2019.11.22発行)

 

向田邦子『向田邦子の本棚』

河出書房新社 1980円

今年は向田邦子の生誕90年に当たる。本書は住居に遺された蔵書を通して、そ軌跡と人となりをたどる冊だ。吉行淳之介や野呂邦暢の作品。夏目漱石やバルザックの全集。そして大好きな食をめぐる本。天性の書き手は一流の読み手でもあったことを実感する。(2019.11.30発行)

 

武田百合子『武田百合子対談集』

中央公論新社 1870円

単行本未収録を含む、初の対談集である。深沢七郎を相手に武田泰淳の日常を語り、吉行淳之介と共に西鶴『好色五人女』を通して男と女の機微を探る。さらに著者を「野生の牝馬にして陽気な未亡人」と呼ぶ、金井久美子・美恵子姉妹との本音鼎談も一読の価値あり。(2019.11.25発行)

 

泉 麻人『1964』

三賢社 1650円

本書はオリンピックイヤーとなった、怒涛の1964(昭和39)年を回想したものだ。アイドルだった舟木一夫。相撲の大鵬と柏戸。「エイトマン」や「狼少年ケン」のシール。「忍者部隊月光」の活躍。そして迎えた10月10日の開会式、東京は見事な晴天だった。(2019.12.10発行)

 

成瀬政博『表紙絵を描きながら、とりあえず。』

白水社 2420円

20年以上も『週刊新潮』の表紙絵を描き続けている画家の自伝的エッセイ集だ。養子に行った実兄、横尾忠則のこと。「どう生きていったらええんや」と言っていた晩年の父。そして大阪から移り住んだ信州安曇野での生活。絵はいかにして生まれてくるのか。(2019.12.10発行)

 

 


「文化庁芸術祭」大賞&優秀賞のNHK「土曜ドラマ」

2019年12月30日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

 

「文化庁芸術祭」で大賞&優秀賞に輝いた、

2本の「土曜ドラマ」とは!?

 

令和元年度(第74回)「文化庁芸術祭」の受賞作が公表されました。

その「テレビ・ドラマ部門」で、木村文乃主演『サギデカ』が大賞を、そして高橋克実主演『デジタル・タトゥー』が優秀賞を受賞しました。どちらもNHK「土曜ドラマ」での放送でしたが、一体、どんな作品だったのか!?

詐欺の被害者と加害者、双方に迫った『サギデカ』

漫画や小説が原作のドラマもいいけど、たまには面白いオリジナル作品を見てみたい。

そんな思いの視聴者にピッタリだったのが、今年の8月から9月にかけて放送された、NHK土曜ドラマ『サギデカ』でした。

主人公は特殊詐欺捜査が専門の警部補、今宮夏蓮(木村文乃)。追っていたのは悪質な詐欺組織です。

主な被害者は高齢者たちで、家族がトラブルに巻き込まれたと言って欺く基本的なものから、「地面師(じめんし)」グループによる犯罪に巻き込まれたケースまで多様。しかも、展開される詐欺事件が、いずれも細部までリアルなものでした。

夏蓮は捜査の過程で、電話で相手をだます、優秀な「かけ子」だった加地颯人(高杉真宙)と出会います。

「自殺したくなるほど働かせて微々たる給料しか払わない、合法なだけでケチで冷たいブラック会社より、ウチのほうが社員思いで合理的」だと言い張る加地。

「やるんだったら本当にガメツイ年寄りをピンポイントで狙いなさいよ!」と怒りをあらわにする夏蓮。

2人が対峙(たいじ)する取調室の場面は、木村さんが主演女優としての存在感を示して圧巻でした。

実は夏蓮にも加地と同様、過酷な過去があることが分かってきます。加害者と被害者。犯罪者と警察官。単純な対立軸だけでは見えてこない、社会や人間の深層に迫ろうとするドラマだったのです。

脚本は前回の文化庁芸術祭大賞『透明なゆりかご』も手掛けた、安達奈緒子さんのオリジナル。

詐欺組織を率いる「番頭」(長塚圭史)や、その上に君臨する「首魁」(田中泯)との一筋縄ではいかない戦いには、じりじりするような緊迫感があり、見応えがありました。

ネット社会のダークサイドに斬り込んだ『デジタル・タトゥー』

今年の5月から6月にかけて放送された、NHK土曜ドラマ『デジタル・タトゥー』は、ネット社会のダークサイドに斬り込んだ意欲作でした。

タイトルは、ネット上に刻まれた「負の記録」が、入れ墨のように残り続けることで人を苦しめる現象を指します。

弁護士の河瀬季(かわせ とき)さんの著書『デジタル・タトゥー ~ インターネット誹謗中傷・風評被害事件ファイル』が原案で、脚本は浅野妙子さん。

主人公の岩井堅太郎(高橋克実)は元特捜検事で、現在は弁護士をしています。検事時代に大物政治家・伊藤秀光(伊武雅刀)の疑獄事件を担当し、秀光の長男を自殺に追い込んだという苦い過去があります。

そんな岩井の助けを求めてきたのが、人気ユーチューバーのタイガこと伊藤大輔(瀬戸康史)でした。

実は、タイガは伊藤秀光の次男。しかし、ネットでの炎上をきっかけに何者かに命を狙われる事態に陥ったのです。そんな2人が、ネットによる被害者を救済する活動を始めます。

たとえば、8年前に冤罪(えんざい)の痴漢事件で有罪となり、教師の職を追われた男が登場しました。彼は住む場所を変え、ようやく小さな塾を開いたのですが、過去の出来事を蒸し返す執拗(しつよう)な投稿のせいで、塾を閉めざるを得なくなります。

その痴漢事件の担当検事が自分だったこともあり、この案件を引き受ける岩井。調べてみると、投稿者は塾に息子を通わせていた母親(中越典子)でした。彼女には性犯罪者を恨む強い理由があり……。

岩井とタイガが向き合うのは、他者の人生を破壊する力を持つ、「匿名性」という名の凶器でした。しかも被害者になる可能性は誰にでもあるのです。異色コンビの戦いは、見ている側にも、他人事ではない恐怖を感じさせるに十分なものでした。

芸術祭大賞の『サギデカ』。そして優秀賞の『デジタル・タトゥー』。2本の「土曜ドラマ」に共通するのは、ヒリヒリするような「現代のリアル」だったのです。



【気まぐれ写真館】 令和元年も、あと1日

2019年12月30日 | 気まぐれ写真館

神奈川 2019