松本潤主演「となりのチカラ」
宮沢賢治の言う
“デクノボー”かもしれないけれど・・・
東に病気の子どもがいれば看病してやり、西に疲れた母親がいれば荷物を背負ってあげる。宮沢賢治「雨ニモマケズ」に登場する、ワタシだ。
父親からDVを受けている少女がいれば相談に乗ってやり、認知症の女性とその世話をする孫がいれば見守ってあげる。こちらは木曜ドラマ「となりのチカラ」(テレビ朝日系)の主人公、中越チカラ(松本潤)である。
ドラマ版「雨ニモマケズ」といった感じだが、チカラが放っておけない相手は同じマンションの住人たちだ。日常的に接するからこそ、親切とおせっかいの線引きが難しい。
それにチカラにできることは限定的だ。迷った末の見当違いもある。
先週はベトナムから来た女性研修生に頼まれ、父親でもないのに中絶同意書にサインしていた。妻の灯(上戸彩)の助けで事態は好転したが、何かと危なっかしい主人公だ。
チカラは決してヒーローではないし、住民の悩みや問題を鮮やかに解決できるわけでもない。まさに賢治の言う「デクノボー」かもしれない。
だが当事者たちはそれぞれ、少しずつ救われていく。そしてチカラの右往左往ぶりの向こうに、今の世の中が見えてくるのだ。
脚本は「家政婦のミタ」などの遊川和彦。随所でコメディーセンスを発揮する松本と、助演女優賞級の勢いでアシスト妻を演じる上戸の奮闘もあり、笑える社会派ホームドラマになっている。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.02.16)