碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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今期ドラマの「不在」で気になる、脚本家「野木亜紀子」

2022年02月12日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

今期ドラマの「不在」で気になる、

脚本家「野木亜紀子」

 
 
今期のドラマでは「不在」だから、手掛けた作品の放送がないから、逆に気になる「脚本家」がいます。
 
宮藤官九郎さん、坂元裕二さんに続いて、野木亜紀子さんを挙げたいと思います。
 
ドラマの可能性を広げた『アンナチュラル』
 
2016年放送の『重版出来(じゅうはんしゅったい)!』(TBS系)や『逃げるは恥だが役に立つ』(同)がヒットした野木さん。
 
とはいえ、どちらも同名漫画という原作がありました。
 
その意味で、野木さんの本領が発揮されたと言えるのが、オリジナル脚本の『アンナチュラル』(18年、同)です。
 
物語の舞台は「不自然死究明研究所」。
 
警察や自治体が持ち込む、死因のわからない遺体を解剖し、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」の正体を探る研究所でした。
 
執刀するのは、三澄ミコト(石原さとみ)や中堂系(なかどうけい、井浦新)たち法医解剖医です。
 
野木さんは、単なる謎解きのサスペンスドラマとは一線を画し、遺(のこ)された者たちがいかに生き続けるかを問い掛けました。
 
自殺系サイトや長時間労働、いじめ等の今日的な問題を織り交ぜつつ、解剖医たち自身が「生きるとは何か」という根源的な問いに向き合うプロセスを、卓抜な構成力で描ききったのです。
 
「ドラマというのは、ここまでできるんだ」という、いわばドラマの可能性を広げた1本と言えるでしょう。
 
「社会病理」の闇に迫った『MIU404』
 
また、斬新な刑事ドラマだったのが、20年の『MIU404』(同)です。
 
タイトルは、第4機動捜査隊に所属する、伊吹藍(いぶきあい、綾野剛)と志摩一未(しまかずみ、星野源)のチームを指すコールサインでした。
 
事件発生後、すぐに展開される「初動捜査」という短期決戦が彼らの任務です。
 
野性のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。対照的でありながら、内部に葛藤を抱えることでは共通する、魅力的なキャラクターでした。
 
扱われる事件はさまざまでしたが、このドラマの「核」は、一種の「社会病理」を描くことにありました。
 
たとえば、外国人による「コンビニ強盗事件」では、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていました。
 
とはいえ、2人の主人公は単純な「正義の味方」ではありません。社会病理は彼らの内部にも巣くっている、いわば「魔物」かもしれないのです。
 
「他人も自分も信じない」と言う志摩。「オレは(人を)信じてあげたいんだよね」と伊吹。
 
しかし、そんな言葉も、額面通りに受け取れないのが「野木ドラマ」の面白さです。
 
プロデューサーが新井順子さん、演出は塚原あゆ子さん、そして脚本の野木さん。『アンナチュラル』の最強トリオが放った、剛速球にして変化球でした。
 
そして、次回作は・・・
 
今年の初夏には、野木さんが脚本を担当した、アニメーション映画『犬王』(湯浅政明監督)が公開される予定です。
 
それはそれで注目ですが、やはりドラマが観たい。
 
21年に新作が観られなかった分、今後、野木さんが提示してくれるはずの、新たな「ドラマ世界」への期待が大きくなるのです。