碓井広義ブログ

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「カムカムエヴリバディ ひなた編」女優・川栄李奈の進化と挑戦

2022年02月20日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

「カムカムエヴリバディ ひなた編」 

女優・川栄李奈の進化と挑戦

 

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK)が第3部の「ひなた編」に入り、これまで以上に吸引力を増している。何より川栄李奈が演じる大月ひなたが気になって仕方ないのだ。

天真らんまんなひなた。その明るさは見ていてホッとする。だが、地道な努力は苦手で、壁にぶつかれば、すぐにくじける。ヘタレと言ってもいいくらいだ。

しかも何を考えているのか、よく分からない。前向きな主人公の「成長物語」とか、「自立物語」といったイメージの強い朝ドラで、こんなにボーッとした感じの無防備なヒロインは珍しい。いや、だからこそ見る側は応援したくなってくる。

思えば、本作と同じように藤本有紀が脚本を手掛けた朝ドラ「ちりとてちん」もそうだった。主人公の和田喜代美(貫地谷しほり)は、見ていて歯がゆくなるほどネガティブ思考で、これまたボーッとしていたものだ。

藤本には、いわば「アンチ朝ドラヒロイン」を造形したいという意思があるのかもしれない。ご都合主義ではない分、生身の人間、リアルな女性像が現出する。突出した能力もさることながら、自分が好きなものがあることの幸せが示された。喜代美の場合は「落語」であり、ひなたにとっては「時代劇」だ。

川栄の演技にも注目すべきだろう。ひなたの生き生きとした喜怒哀楽は、役柄の中に自分を浸透させていく、川栄ならではの業だ。それは2018年のNHK広島開局90年ドラマ「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国2018」でも発揮されていた。

舞台は敗戦から10年後、1955年の広島だ。23歳の皆実(川栄)は事務員として働いている。同僚の青年が思いを寄せるが、素直に受け入れることができない。それは皆実が被爆者だったからだ。

家族を含め多くの人が犠牲となったのに、自分が生き延びてしまったことへの後ろめたさ。やがて自身も原爆症を発症するのではないかという恐怖心。

皆実が幸せを感じたり、何かを美しいと思ったりした瞬間、彼女の中で原爆投下直後の光景がよみがえる。皆実の独白によれば、「お前の住む世界はここではないと誰かが私を責め続けている」のだ。この難役に川栄は自然体で臨んでいた。

あれから4年。さらに進化した「女優・川栄李奈」がここにいる。祖母の安子(上白石萌音)とも、母のるい(深津絵里)とも異なるキャラクターのひなた。しかし、芯の強さなどが継承されているのは確かだ。

過去は現在につながっており、道をひらく人たちがいたからこそ今の自分がある。そんなことを思わせてくれる、女性3世代・100年の物語だ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2022.02.19 夕刊)