碓井広義ブログ

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放送開始70年  テレビの現在とこれから

2023年01月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

 

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放送開始70年 

テレビの現在とこれから

 


日本におけるテレビの「放送元年」は1953年だ。2月1日にNHK東京テレビジョン、続いて8月28日に日本テレビ放送網が放送を開始したのだ。2023年は「放送開始70年」という記念の年に当たる。

とはいえ放送が始まったとき、NHKの受信契約数は866件に過ぎない。これは当時のテレビ受像機とほぼ同数だった。日本のテレビは、千台に満たない受像機に向けて電波を送ることからスタートしたことになる。放送時間も朝、昼、夜の短い時間に限られており、またVTRという映像記録装置も登場していないため、ドラマも含むほとんどの番組が生放送だった。

放送開始時点で最も注目すべき点は、NHKが視聴者から受信料を受け取る「有料放送」であり、日本テレビがスポンサーのCMを入れての「広告放送=無料放送」だったことだ。つまり「産業としてのテレビ」という側面においては、今日に至るまで「ビジネスモデル」が基本的に変わっていないのだ。民放に限って見た場合、テレビの出現とは、新たな「広告媒体」の登場に他ならなかったことは再認識すべきだろう。

開始から70年が過ぎた現在、テレビの状況は激変した。1995年~2000年代にかけて普及し、やがて完全にインフラ化したインターネットの影響が非常に大きい。それまでは番組を作って流すシステムの全体像はこうだった。コンテンツ=テレビ番組、受信装置=テレビ受像機、そして流通経路=電波である。

しかし、テレビ番組というコンテンツは同じでも、約30年の間に受信装置と流通経路にITが進出した。コンテンツ=テレビ番組、受信装置=テレビ・携帯電話・パソコン、流通経路=電波・ケーブルテレビ・インターネットという具合に変化してきたのだ。また受信装置の多様化によって、テレビの広告媒体としての価値を支えてきた「視聴率」も、以前と同じ尺度ではなくなっている。

2022年4月11日、在京在阪民放テレビ局10社は民放キー局などで運営する配信サイト「TVer(ティーバー)」でゴールデン帯を中心に同時配信をスタートさせた。やや遅すぎる取り組みではあるが、その意義は小さくない。現在は「ネットでも見られるテレビ」だが、やがて「電波でも見られるテレビ」といわれるようになりそうだからだ。

しかし、受信装置や流通経路がどのように変わっても、「番組」の重要性は変わらない。それどころか、むしろ高まっていく。70年を経たテレビの生命線は、現在もこれからもそこにある。

(北海道新聞 2023.01.07)


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