碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評】2022年9月前期の書評から 

2023年01月09日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年9月前期の書評から

 

東 浩紀『忘却にあらがう~平成から令和へ』

朝日新聞出版 1980円

著者は団塊ジュニア世代を代表する批評家。本書は週刊誌に連載した時評集だ。2017年1月から22年4月までの131本が収録されている。17年に登場したトランプ大統領という「矛盾」。「共謀罪」法案。18年の招致段階で見えた東京五輪の「無理」。19年、「表現の不自由展」中止。20年の学術会議「任命拒否」問題。21年、コロナ対策の迷走。書名の通リ、忘れていいことと悪いことがある。(2022.08.30発行)

 

森繫久彌ほか『親愛なる向田邦子さま』

河出書房新社 1782円

向田邦子が亡くなったのは1981年の夏だ。41年を経て上梓された本書。向田を知る24人が「私の向田邦子」を語っている。「どこへ行くんだ、この雨の中、風さえ強いのに、邦子さん、邦ちゃん」と呼びかける森繫久彌。黒柳徹子は若い頃から親交がありながら向田作品に出ていない。向田は「おばあさんになるのを待っている」と言ったのに。小説やドラマだけでなく、豊潤な「思い出」も遺された。(2022.08.30発行)

 

クレイグ・ブラウン:著、木下哲夫:訳

『ワン、ツー、スリー、フォー~ビートルズの時代』

白水社 8800円

1962年にレコードデビューしたビートルズ。60年後に出現した本書は、新たなビートルズ像を見せてくれる労作だ。彼ら4人と同時代の人々や出来事との関わりを、これまでスポットが当たらなった素材を並べることで浮彫にしていく。伝記、回想録、日記、ファンレター、インタビュー、さらに噂話まで収集。150章の複眼的・立体的な読み物として構築した。類書にはない臨場感こそが本書の真価だ。(2022.08.30発行)

 

岡井 隆『岡井隆の忘れもの』

書肆侃侃房 3300円

歌人の岡井隆が92歳で亡くなったのは2年前の夏だ。本書には単行本未収録のエッセイや論考が収められている。斎藤茂吉の戦争詩を捉え直し、石川啄木のメッセージ性に注目する。また大岡信、平出隆、多和田葉子、穂村弘などに言及。詩、散文、歌をめぐる持論が展開される。「若い冒険家たちよ、この奇妙な伝統詩型を手にとってごらん。なかなか面白い遊び道具だよ」という呼びかけも微笑ましい。(2022.08.10発行)

 

加藤陽子『歴史の本棚』

毎日新聞出版 1760円

加藤は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』などの著作で知られる、日本近代史が専門の東大教授。2年前には日本学術会議の新会員に推薦されながら、当時の菅首相によって任命を拒否された。本書は歴史に関する本の書評集だ。「未来のために過去はある」としながら、大西巨人『神聖喜劇』、半藤一利ほか『「東京裁判」を読む』、石堂清倫『わが異端の昭和史』など50冊以上を推す。(2022.08.20発行)

 

日高勝之:編著『1970年代文化論』

青弓社 1980円

「政治の季節」と「バブルの時代」に挟まれた1970年代。本書は複雑で「みえにくい」10年間を、メディア文化の視点から解読しようとする試みだ。山田太一脚本『岸辺のアルバム』など、「ホームドラマ」から「反ホームドラマ」への転換。雑誌「ビックリハウス」に見る、女性運動と社会運動。大島渚と蓮実重彦の「反時代・反政治・反制度」等、気鋭の研究者たちによる多彩な考察が並んだ。(2022.08.26発行)