碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【気まぐれ写真館】「寒かった土曜日」の夕景

2023年01月21日 | 気まぐれ写真館

2023.01.21

 


【新刊書評】2022年10月前期の書評から

2023年01月21日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年10月前期の書評から

 

 

和田菜穂子『山手線の名建築さんぽ』

エクスナレッジ 1980円

著者は気鋭の建築史家だ。大学の教壇に立ちながら、近現代建築の魅力を広めるツアーも実施している。本書には、山手線で行けるレトロ建築、街のシンボル的存在、さらに有名建築家が手掛けた建物などが並ぶ。優美なアール・デコ建築は目黒の庭園美術館(旧朝香宮邸)。渋谷の松濤美術館は孤高の建築家・白井晟一の傑作だ。本書を片手に山手線を一周する、贅沢な散歩が似合う季節になった。(2022.09.13発行)

 

柴 裕之『青年家康~松平元康の実像』

角川選書 1870円

来年のNHK大河ドラマは『どうする家康』。徳川家康が主人公の大河は3度目だが、今回は特に青年期が焦点となる。本書は若き日の家康をテーマとしており、ドラマの予習を兼ねた家康入門に最適だ。歴史学者である著者は、まず家康が登場するまでの経緯を丁寧に辿る。その上で、今川家での人質時代を独自の視点で検証。単なる忍耐の人ではなかった家康の新たな人物像が浮かび上がってくる。(2022.09.14発行)

 

戌井昭人『厄介な男たち』

産業編集センター 1870円

俳優、劇作家、小説家などの顔を持つ著者のエッセイ集だ。「自分にふりかかった厄介ごとを振り返った」一冊となっている。サウナでテレビの撮影隊に遭遇。タオルで顔を隠したが、股間はそのままだった。箱根の温泉施設では女子用のスクール水着を着た男性を目撃。嬉々として自撮りする姿から目が離せない。どこか間抜けな所業のオンパレードだが、一番の厄介男は著者自身かもしれない。(2022.09.14発行)

 

小田嶋隆『小田嶋隆のコラムの向こう側』

ミシマ社 1980円

今年6月、コラムニストの小田嶋隆が65歳で亡くなった。相手が権力者であれ社会であれ、忖度も自己顕示も抜きで切り込む姿勢が痛快だった。本書は生前最後の1本を含む遺稿集にして傑作集。コロナ禍のこの国と人を見つめ、自身の病についても語っている。商業メディアの「言った者勝ち」を嗤う、独自の視点。突然「結論を述べる」と言い出す、自在な表現。失われた才能をひたすら惜しむ。(2022.08.30発行)

 

川本三郎『ひとり遊びぞ 我はまされる』

平凡社 2420円

2018年から21年にかけての日々を記した、日付のない日記である。78歳で一人暮らしの著者は、映画を見る、本を読む、ローカル線の旅に出るなど、基本的に「好きなこと」だけをしている。荷風や台湾への傾倒はもちろん、小淵沢の駅舎で五所平之助監督の『わかれ雲』を思う。新海誠監督『君の名は。』で、複数の鉄道が交差する実在の風景に感心する。ひとり遊びの達人には自由の風が吹く。(2022.09.21発行)

 

ジョージ・オーウエル:著、吉田健一:訳『動物農園』

中央公論新社 2200円

オーウェルの小説『動物農場』が世に出たのは1945年8月。農場で飼われていた動物たちが農場主を追い出し、理想の共和国を作ろうとする。しかし独裁者となった豚が恐怖政治を断行する衝撃作だ。当時の「ソビエト神話」への疑問と警鐘。革命が独裁体制や専制政治を招く危険性を描く寓話として極めて現代的だ。本書は吉田健一の名訳と描き下ろしの絵による新装版。時代を超えた予見性に驚く。(2022.09.25発行)

 

藤原学思『Qを追う~陰謀論集団の正体』

朝日新聞出版 1870円

「Q」とは米国政府の機密情報にアクセス可能といわれる人物。そしてQの信奉者たちが「Qアノン」だ。彼らが発信する根拠のない情報はSNS上で拡散され、世界に影響を与えている。日本も例外ではない。著者はQを追って足かけ3年にわたる取材を行った。たどり着いたのが、アジア系米国人のロン・ワトキンスだ。果たして彼はQなのか。陰謀論が蔓延する背景も含め、ネット社会の闇に迫る。(2022.09.25発行)