碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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秀逸なおっさんの成長物語「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」

2024年02月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

秀逸なおっさんの成長物語

「おっさんのパンツが

  なんだっていいじゃないか!」

 

東海テレビ・フジテレビ系「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」は、今期出色の深夜ドラマだ。

主人公の沖田誠(原田泰造、好演)はリース会社の室長。「男が上を目指さないでどうする!」などと部下を叱咤してきた。しかし、本人には当然の言動も、部下たちにとってはパワハラやセクハラだったりする。

家庭内でも同様で、妻の美香(富田靖子)には愛想をつかされ、娘の萌(大原梓)には煙たがられ、息子の翔(城桧吏)には全否定される始末。特に、ひきこもりで、「男らしさ」の強制を嫌う翔が悩みの種だ。

そんな誠が翔の慕う大学生、五十嵐大地(中島颯太)と出会う。ゲイである大地から勧められたのが「モラルのアップデート」だった。

だが、凝り固まった偏見をなくし、倫理観とマナーを更新することは簡単ではない。失敗を重ねる誠の姿に、見る側もつい自身を投影してしまう。おっさんの成長物語として秀逸だ。

ある日、誠が気づく。性別や性的指向は「おっさんのパンツ」みたいなものだと。

何をはいても誰の迷惑にもならない。プライベートなことであり、公表する必要もない。それに家族だって違う人間だ。他者が大事にしているものを自分の尺度で否定してはいけない。

原作は練馬ジムの同名漫画。藤井清美の脚本が原作のメッセージをしっかりと伝えている。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.02.07)