「週刊新潮」に寄稿した書評です。
風間研
『挿絵画家 風間完
~昭和文学を輝かせ、美人画を描き続けた人生』
平凡社 2970円
五木寛之『青春の門』、池波正太郎『真田太平記』などの挿絵で知られる風間完。本書は息子でフランス文化研究者の著者による評伝だ。油絵画家だった風間は、生計のために挿絵の仕事を始めた。やがて多くの作家に認められ、第一人者となっていく。「挿絵画家は職人」を信条とし、作家との緊張状態を保ち続けた風間。著者にしか語れない、吉行淳之介や山口瞳たちとのエピソードも貴重だ。
難波祐子『現代美術キュレーター10のギモン』
青弓社 2200円
キュレーターとは、美術館や博物館などの展覧会の企画・構成・運営などに携わる専門職だ。東京藝大准教授の著者も国内外で展覧会企画に関わっている。では、現代美術はどこで展示されるのか。何を展示するのか。そもそも現代美術の「作品」とは何を指すのか。本書は、そんな素朴な疑問に答えてくれる。キュレーターの仕事を知ることで、現代美術への理解がより深まっていく構成が見事だ。
佐高信、高世仁
『中村哲という希望~日本国憲法を実行した男』
旬報社 1760円
35年もの間、アフガニスタンで医療活動を行い、用水路建設に携わった医師・中村哲。2019年に現地で何者かに銃撃され、無念の死を遂げた。各地で続く紛争を踏まえ、中村の行動をめぐって評論家とジャーナリストが語り合ったのが本書だ。平和とは戦争がないことではなく、「一番大事なのは生存する権利だ」と言った中村。彼を支えていたのがバックボーンとしての「憲法九条」だったことを知る。
梶山三郎『トヨトミの世襲 小説・巨大自動車企業』
小学館 1980円
2016年、経済記者で覆面作家の著者は『トヨトミ野望』を上梓した。物語の舞台は実在の会社を思わせる世界的自動車メーカーだ。本書はシリーズ3作目。軸となるのは創業者の孫で社長の豊臣統一だ。EV開発の遅れ。息子への事業継承。そこにディーラー再編や不正車検問題も加わる。国の経済全体を左右する企業のトップである、統一に対する著者の目は一層厳しい。
(週刊新潮 2024.02.22号)