「週刊新潮」に寄稿した書評です。
久慈きみ代『寺山修司 ぼくの青森ノオト』
論創社 3300円
昭和29年、早大に入学した寺山修司は「チェホフ祭」で第二回「短歌研究」新人賞を受賞する。それ以前の青森時代の作品を解読したのが本書だ。たとえば、自筆ペン書きの歌集『咲耶姫』は高校一年の時だった。「逢わぬ日は胸に満たらぬ思いあり 哀しからずや十六の恋」などを収録。中学時代の父や母といったテーマに代わり初恋が浮上する。創作活動の基本スタイルを知る貴重な手がかりだ。
国立映画アーカイブ:監修『和田誠 映画の仕事』
国書刊行会 3520円
2019年に83歳で永眠した、イラストレーターの和田誠。膨大な仕事の中から映画関係を厳選したのが本書だ。3月24日まで国立映画アーカイブで開催中の同名展覧会の公式図録でもある。1960年代に描いた日活名画座のポスター、『キネマ旬報』の表紙、装丁を手がけた映画書、収集した米国映画ポスター等が並ぶ。さらに映画『麻雀放浪記』をはじめとする、自身の監督作品の軌跡も辿ることが出来る。
ハルノ宵子『隆明だもの』
晶文社 1870円
漫画家の著者は吉本隆明の長女である。妹は作家の吉本ばななだ。全集の月報に連載した文章が一冊になった。家族だからこそ知る、素顔の吉本隆明が興味深い。節約をしない。贅沢はしないがケチらない。「何か善いことをしているときは、ちょっと悪いことをしている、と思うくらいがちょうどいいんだぜ」などと呟く。著者が父から刷り込まれたのは、「群れるな。ひとりが一番強い」だった。
淡谷のり子:著、早川茉莉:編
『生まれ変わったらパリジェンヌになりたい』
河出書房新社 1760円
放送中のNHK朝ドラ『ブギウギ』。主人公・福来スズ子(趣里)の盟友でもある先輩歌手、茨田りつ子(菊地凛子)のモデルが淡谷のり子だ。本書は淡谷のエッセイをテーマ別に編んだ、オリジナル・アンソロジーである。クラシック音楽からポピュラー歌手への転進。戦時中も自身のスタイルを通した反骨精神。「演歌なんてケチくさい歌は、油かけて燃やしたい」とブルースの女王は意気軒昂だ。
(週刊新潮 2024.02.15号)