碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】『正義はどこへ行くのか ~映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』

2024年02月23日 | 書評した本たち

 

 

多様性時代の悩めるヒーロー像

 

河野真太郎

『正義はどこへ行くのか

  ~映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』

集英社新書 1056円

 

クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』が公開されたのは2008年。「ヒーローも大変だなあ」と思った。なぜなら、悪を倒しているはずのバットマン自身が、「無法者」と呼ばれてしまうのだ。

ゴッサム・シティでは、「正義の暴力」と「悪の暴力」の境界線が崩れ、バットマンとジョーカーがコインの裏表のような存在となっていた。戦闘シーンの迫力が凄まじい分、一人になったときのバットマンの孤独も深いように見えた。

ヒーロー物語が、なぜこんな風になってしまったのか。河野真太郎『正義はどこへ行くのか映画・アニメで読み解く「ヒーロー」がその謎を解明している。

著者によれば、『ダークナイト』は21世紀アメリカの「孤立した正義」を表現する作品だった。

そして、「法の外にいるからこそ正義をもたらしうる」伝統的なヒーロー像は、「右と左のポピュリズムの区別がつけがたくなった」トランプ時代に維持不能となる。

さらに著者は、ポストトランプ的な社会状況に応答する作品として『スパイダーマン』の最新シリーズなどを挙げ、「多様性」が一般化した時代における「正義」とヒーローの行方を考察していくのだ。

もちろん、日本のヒーローも登場する。超越的なヒーローが正義をもたらす『ウルトラマン』。より等身大なヒーローである『仮面ライダー』。近年の『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』が表象するものも興味深い。

(週刊新潮 2024.02.22号)